生存放棄(3)


   12


 朝が来た。とても明るく、美しい朝だった。ここが無人島でなければとても爽やかな寝起きだったかもしれない。

「朝か」「なんか寝てたのに疲れたぁ……」

 生徒達は、若干だる気味に重い体を起こし始めた。

「今日はどうするよ」

「とりあえずここは出た方がいいな。怪物がここに来るかもしれないからな……」

「本当にんなもんいたのかよ……?」

 男子生徒の一人、わたり将章まさあきが怪訝そうに火城に訊く。

「いたんだよ……確かにアレは……バケモノだった」

「いやああああああああ!!」

 どこからか悲鳴がした。

 ふと廃墟の左端を見ると、泣きながら怯える諸星もろぼしと、真っ赤な液体がたっぷりと着いている先が尖った木の枝で、喉と胸に空いている無数の穴から真っ赤なモノを流しきって廃墟の端で冷たくなっている白石の姿があった。

 たとえ生きていたとしても、美しいどころか儚ささえ感じられたその白い肌は、まさに生気がないと言っていいほどにさらに青白く色褪せ、たとえ廃人でさえ出しえないぐらいの色にまで枯れ果てていた。

 それは、皆が始めて見る本物の死人の顔であった。

「白石さん……!」

「そん……な…………」

「お、おえええぁっ!」

 廃墟に慟哭が響き渡った。

 それは、彼らに果たして未来はあるのかと言いたくなってしまうほどの、絶望的な場面であった。

 そして白石朝美は生存する事を放棄した。彼女の精神ダメージは異常以上だった。らしい。だから異常な「あきらめ」をしたのだろうか。

 とにかく、白石に美しい朝が来ることが一切無くなったのは確かだった。


   13


「白石さん……堪えられなかったんだ」

「まさか……何でこんな事に……」

 仲間がまた一人いなくなった。

 このまま俺達は、全員光の国に行ってしまうのか。なんて思うと背筋が凍り付いた。

「嫌……私、死にたくない」

 葛西かさい真亜矢まあやが膝をついて泣きじゃくっていた。

 当然だ。あまり話してはいなかったとはいえ、白石朝美とは友達だったのだから。

「真亜矢……私達は天国でもずっと一緒だからね」

 隣りで恩田おんだ瑠可るかが葛西を抱き締め同じように泣いていた。

「お前ら、早く行くぞ」

「白夜!」

 火城が黒神を肘で小突いた。

「……ごめん」

「さよなら、朝美」

「助けられなくてごめんね」

 葛西と恩田は先程作った白石の墓に海豚のキーホルダーを供え、廃墟を後にした。

 それは葛西と恩田が白石にプレゼントするために小遣いを集めて買った物であった――

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