◆13 完

――本当に変わったな、ルチル様は。


 ウルは「あんたを人間にする」と宣言した通り、様々な、彼なりの常識を親兄弟同然に教え込んだ。

 時には怒らせてしまい殴られもしたが、殺されずにこれまで遣えて来れた。


 そして、未だ少し非常識な部分はあるが、人間として、姫としてルチルを成長させてみせた。

 今では(暇つぶしも兼ねているのだろうが)メイドを助け出せとまで言うほどだ。


 すぐさま殺そうとしたあの頃に比べると、素晴らしい成長ぶりである。


 手を伸ばし、ルチルの頭辺りを軽く撫でてやる。

 少し(いやかなり)小生意気ではあるが、自分にとっては妹のようなものだ。

 ルチルとってもそうだろう。


 ありえない想像ではあるが、もし、ウルが居なくなる時が来たら、彼女は一体どうするのだろうか。

 とりあえず、寝入るまでに時間がかかるであろう事は確かである。


 そういった意味では、彼女の『唯一無二』にはなれているのかもしれない。


「寝るまでは、そこでじっとしてなさいよ。分かった?」


「アイ・マム」


 少なくとも、ウルにとってのルチルは『唯一無二』だった。

 どれだけ難のある性格だったとしても、小さな檻から救い出してくれたのは、間違いなくこの細い手なのだから。


 白いカーテンのから覗く太陽はとっくに空を昇っている。

 外は太陽を中心とした世界になっていた。


 しかし、夜の主役である月は落ちる様子もなく銀色に輝き、ぽっかりと空に浮かんでいた。

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美女の野獣 琴あるむ @kt-arm

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