◆5

 夫人達は我が耳を疑うかのように、そろって首を傾げた。

 ルチルの表情は儚げに笑んだままである。


 その顔に、そうか、自分達以外の事を言っていたのかと合点したようで、夫人達は「ですわよねぇ、おほほほ」と誤魔化すように笑った。


「っつーかさぁ」


 銀色の目が強く光る。

 眉尻は高慢に上げられ、片目に皺を寄せ、強い語調で言葉を続けた。


「話した事もないくせに、よく野蛮だのなんだの分かるわね? ものすっごい目をお持ちですこと」


 ピキ、と三人の笑顔が凍る。

 先ほどの彼女からは想像もつかない台詞が出たからか、今度こそ間違いなく、自分達に向けられた言葉だと分かったからか。


 ルチルはチラと夫人達の背後を見て、小さく舌打ちをする。

 そこには、必死に人垣を掻き分けるウルの姿。金色の眼が必死に「止めろ」と語っている。


「それに、パルファン夫人」


 ルチルは、特に香水の匂いが強い夫人の名を呼び、彼女の耳元にそっと口を寄せた。


「犬よりも先に、香水狂いの夫を躾けるべきではなくて? あなたもだけれど、毎夜毎夜メイド寮への道が香水臭くなってやんなっちゃうわ」


 強張る肩に手を置き、そっと撫でてやる。


「ルチル様!」


 肩に置いた手をウルに掴まれるが、ぱしりと払い退けた。

 夫人の顔は見る見る真っ赤になっていき、今にも爆発しそうである。


 くすくすと楽しそうに笑うルチルだったが、ウルに背中を押され、前へと促される。

 されるがままにその場を離れると、後ろから溜息交じりの声がした。

 かすかに獣の臭いが混じっていて、ルチルにはそれが心地良い。


「また自ら敵を作るような真似をして……!」


「どうせあたしは、舞踏会を開くたびに民から命を搾取する愚王の娘なんだもの。今更一人や二人増えても変わらないわ」

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