◆6

「そういう問題ではございません!」


 ウルの声はいつだってルチルを心配してくれている。

 きっと自分を本気で叱ってくれるのは、この世界でたった一人、ウルだけだろう。


 ルチルは全く悪びれる素振りもなく、ウルの手から、紅の果実酒が注がれたグラスを引ったくる。


「それに、危険でも、あたしにはウルが居るもの」


「ルチル様……」


 信頼しての言葉だが、ウルの声はあまり嬉しそうではない。

 それはルチルの口癖で、彼としては、あまり好きではないものだからだ。


「あたしを守るのはあんたよ。毒見をするのも、盾になるのも。死ぬのは、あたしよりあんたが先なのよ、絶対に」


 きゅっと、口角を上げる。


「あたしは、ウルが死んで、ようやく危機感を抱けるんだわ」


 ルチルの声や目には、いつだって力がこもっている。

 特にこの口癖を言う時は、絶対の意志があった。


「あたしが死ぬ時は、あんたが死ぬ時よ」


 ウルは、その口癖に、いつでも同じ言葉を返してくれる。

 まるでお約束事のように。


「ならば私は、絶対に死にません。ルチル様よりも先には」


 ルチルは二つの満月を見たまま小さく吹き出した。


「……あ~あ、つまんないわ。強くなっちゃって。ちょっと前まで、すぐ泣いたり、怒って牙をむいたりしてきたのに」


「そりゃあ強くもなりますよ。毎日いじめられてますから」


 ルチルは「ふん」と鼻息で応え、グラスの中身を一気にあおった。

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