◆7

  * * *


 城にとある噂が周ったのは、明朝の事だった。


「聞いた? 最近、ここのメイドが失踪するって事件。その犯人が、ルチル様の近衛兵なんだって! 気に入ったメイドを城から連れ出しては喰らってるらしいわ……」


 勿論その噂はウルの耳にも入った。

 何の証拠もなしに断定された犯人の名ではあったが、城内でのウルの評判を考えれば、別に証拠など必要はないだろう。

 何かの事件が起こり、問題を起こした者が自分の気に入らない者であればそれで良いのだ。


 あまり気にしないようにはしていたが、噂の熱も冷めないうちに朝礼をしなければならないのは流石に気まずかった。


 朝礼とは、城の使用人達が毎朝ロビーで行う集会だ。

 そこで一日の予定をおさらいするのだが、週に一度、護衛や近衛兵も参加しなければならない決まりがあった。


 城中の家来が集まるのだ、ウルへと注がれる視線はいつも以上に鋭く、居た堪れない。


 そんな時だった。

 何故か、先ほどまで寝台で横になっていたはずの主人が、中心に現れたのだ。


「ル、ルチル様ぁ!?」


 思わず大声で叫んでしまう。

 こんなに大きな声を出したのはいつぶりだろう。

 しかも、大勢の前で。


 ざわめく家来達に、ルチルは「静粛に!」と放つ。

 ぴたりと静まったロビーを見て満足そうに頷き、スゥと息を吸った。


「根も葉もない噂が飛び交っているようですが……」


 その声は落ち着いてはいたが、あまり気色の良いものではない。

 流石に自分の近衛兵が殺人犯扱いとなる事が気に入らないのだろうと推測したのか、覚えのある者達が身構えた。


――違う、ルチル様はそんなんじゃない。


 わざわざ従者の為に動くほど優しい人であったら、今までどんなに楽だったか。

 続けて繰り出されるであろう言葉に、今度はウルが身構える。


「出来ればそういった噂は、中心である本人の前で、自分の名を名乗り、聞こえるような声量で話しなさい。裏でこそこそと話すだなんて、あなた方の底意地の悪さが見てとれますわよ」


 ああ、やっぱりな、と。

 ウルは耳を垂らして嘆息した。


 呆然とする家来達に、更に言葉を続ける。


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