◆8

「噂が立つのは何かしらの原因・事実があるからです。火のないところに煙は立ちませんもの。例え明確な証拠はなくとも、疑ってもなんの問題もないのですよ」


――問題はある、ありすぎる。

 っつーかあんた本当……なんて事言ってくれんですかー!


 思わず、垂れていた耳がビンと立ち、尻尾が膨れ上がった。

 傍に立っていたメイドが「ひっ」と小さな悲鳴を上げる。


 その様子を眺めながら、ルチルは「ああそうそう」と微笑んだ。


「もし、この中に犯人として名指しをされている者が居ればの話ですが……」


 居れば、じゃねェよコン畜生!!


 ぱちりと目が合う。

 ルチルの目は相変わらずの平静さを保ってはいたが、十数年連れ添ったウルには分かる。


 今、この人は、必死に高笑いを抑えている、と。


「失われた信頼は自ら勝ち取るものです。もし無実なのだとしたら、自分で勝ち取りなさい」


 ぷるぷると拳が震えるのを抑えられない。

 もとより少し獣が混じっているウルは、人間ほど感情を隠す事を得意としない。

 何せ、全て尻尾や耳に出てしまうのだから。


 そう、自分の主人はこんな奴だった。

 しかし、これでも大分マシにはなったはずなのだ。あの頃に比べれば。


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