◆11

* * *


「なに、して、くれてンですかルチルさまああぁぁぁ! ルチル様が出てった後、私すっごい気まずかったんですよもう!!」


 ルチルの私室へ戻ったウルは、挨拶より何より先に耳を垂らして嘆いた。

 彼女を守る立場にあるので、外では無口で通ってはいるのだが、本来の彼はあまり従者だとは思えない口調で喋る。


 言われた本人は、垂れた耳をふにふにと触りながら「別にいいじゃない」と欠伸をする。


「気まずいのなんて、今までとあまり変わらないじゃないの。気にしたら負けよ」


「私はルチル様ほど神経が図太くないんですよ」


「んまっ。主人に向かってなんて口の聞き方? 今日の昼食、抜きにするわよ」


 そう言って見据えられた目に冗談の色はない。

 彼女がそう言う時は本当に抜く時だ。

 昔は何度となくあったし、今でも気まぐれに食事を抜かれる時がある。


 本人にこれといった悪気はない。

 ただ、今までずっと、そのワガママが許される立場に彼女は居たのだ。

 歪んだ性格を直そうとする者は居なかった。

 ウルが来るまでは。


「それにしても、今回のお遊びもまた、盛大にされてましたね」


 早起きをしたから眠たい、と寝台へ入ったルチルに温かいミルクを渡す。

 嬉しそうに受け取りながら、ルチルはにやりと笑った。

 立場のある彼女は、外では決してそう笑わない。


「何をするにも、盛大にするに越した事はないわ。やるなら派手にした方が面白いでしょ? 使えるものは全て利用してね」


「だからといって、私はまだしも使用人達を巻き込まないでくださいよ。元はといえばこの噂話だって舞踏会でのルチル様の言動が原因じゃないですか……」


 実は、二人にはとっくに犯人が分かっていた。

 香水狂いのパルファン伯爵である。

 気に入ったメイドを見つけては、夜な夜な城内へと忍び込む、困った女癖の持ち主だ。


「攫われたメイド達は、飽きたら山賊に売りつけているようです。運が良ければ命はあるかと」


「そう。なら、その運の良いメイド達は今夜内に救出しなさい。そしてパルファン伯爵を脅迫できる証拠を掴む事」

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