幸菱映え、帯白く。花の顔、喉白く。花嫁御寮が坂井へ参る。
瞠(みはれ)は、『獣返りの子』――異形の子であるとされるがゆえに、数え十五にして領境の神域の門をたたいた。
俗世に在ることは、もはや望めなかった。
けれど、そのような身の上の者はひとりのみならず。……御山の神域『境の坂井』で、獣返りの名で厭われる、少年と少女はあいまみえることとなる。
稔り招きの霊狐を思わせる、人の子ならざる異相の色彩、あるいは咲き乱れる花を纏った、鹿の角を頭上に戴く異様のかたち。
東西の双領にあっては異形以外のなにものでもない、常ならぬ身を互いにさらして。
――異質なものと称される、いびつを抱えこんだふたりが、境界線上で手繰り寄せる、呪いと祈りのその顛末。
(この作品は合同誌『Lithos - 六色の宝石物語 -』収録作品をWEB掲載したものです)