瞳　子

　構音障害を持ち、言葉を話すことのできない少女、百合神 柚眞-ゆりがみ ゆま-はピアノで思いを奏でる。

　90で往生した曽祖父のこと。互いに厳しい眼差しを持つ祖父母。剣道師範として剣の道に邁進する父と、そんな夫に言いなりな母。剣の道を歩んでも大成しない弟。そして、大成しなくなりつつある自分自身。ピアノは好きだ。でも、コンクールで賞が取れなくなった。

　そんな日常の中、はとこに当たる幼馴染の瀧中 琥太-よしなか こた-から連絡が入る。
「今年もバッチリ全国決めたよ！　来週からよっろしっくね〜」
　そんな能天気さに怒りを覚え、決して反撃に出ない彼にその思いをぶつけるが、彼女はついに彼の抱える心意の一端に触れることになる――

　これは、微妙なズレと苛立ちを募らせる日々の中奏でられる、行き着く…続きを読む