瞳 子

常磐 誠

第1話 私達の今 -0-

 私の父親は私の曾祖父そうそふから見て初孫だった。全盲という障害を生まれつき持ってはいたが大層愛されたと父は言う。

 その父とタッチの差で遅れて生まれ、初孫になり損ねた父親の従兄弟がいる。障害はなく、実に頭が良い。けど初孫じゃなかったから愛されなかった。……なんてことになればそれはそれでドラマチックかも知れないが、実際曾祖父は分け隔てなく全ての孫を愛していた。

 そんな父親と従兄弟はタッチの差で曾孫にあたる私達を産んだ。曾祖父は大層面白がり、また喜んだそうだった。結果が逆転した事も、また面白い。曾祖父が言いそうな事だと私は思う。


 離れた場所で竹刀の打ち合う音、気合いの入った子ども達の叫び声が遠く聞こえてくる。

 やぁーっ!

 メェーン! ――ピシャンッ!

 ダンッ、と踏み込まれる床板の音。遠く聞こえてくる音が、やかましいように感じられるようでいて、それでも不快だと思わない。

 その部屋でピアノを弾くことに、特段、障害であると思う事はない。

 私は曾祖父の初曾孫はつひまごになり損ねた。

 だから曾祖父に愛されなかった。という事は無い。実際曾祖父は出来る限り平等に曾孫に接しようとしていたと思うから。

 結構な頻度――大抵週一とか二とか――でパソコンの無料通話をかけてきていた曾祖父が、流石に小学校の高学年になった頃の私にはうざったらしく思え始めていた訳だし、平等に接しようとしていたことは間違いないと思う。東京に住む私と、九州の曾祖父。この距離を埋める為に使われるパソコンの通話は、実に便利ではあった。

 もう、話ができなくなってしまって七年が経ってしまったけれど。

 別に後悔はない。――私には。

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