愛すべきろくでなしたちが織り成す、上質なコメディ群像劇。

 この作品は、架空の町エカトールに集うアウト・ローたちが起こす騒動の悲喜交々を、軽妙で小気味よい筆致で描いた群像劇です。
 本作品の最大の特徴は、頻繁に行われる視点変更の妙にあるといえるでしょう。
 WEB小説界において「頻繁な視点変更」といわれると、一つの出来事に対して、そこに居合わせた人物がそれぞれその視点で出来事について語る――要するに、同じ事象を語り口を変えて説明するだけのもの、と捉えてしまうかたも多いかと思います。
 しかし、本作は一味違います。
 それぞれのキャラクターの視点から語られるストーリーは、常に流動的で新たな動きが発生します。また、一つの視点で敷かれた伏線が、のちに別の視点から回収されることも多く、ストーリー構成の巧みさが光ります。
 また、頻繁に視点が変わりながらも読者が混乱しないのは、キャラクターの書き分けと状況の描写がしっかりとしているから。
 作者様自身があらすじに書かれているとおり、登場するキャラクターたちはほとんどが「ろくでなし、もしくははバカ」なのですが、読者に不快感を与えるようなキャラはいません。まさに、愛すべきろくでなしたちといえるでしょう。
 これぞ群像劇、といえるこの作品。文庫一冊分強の分量がありますが、一気に読了することをおすすめします。
 エカトールでの事件は決着をみましたが、主人公の女剣士マナの冒険はまだまだ続くようです。続編を期待いたします。

その他のおすすめレビュー

柾木 旭士さんの他のおすすめレビュー24