こんにちは。文芸編集部のWです。この度は「カクヨム文芸部の本棚をつくろうキャンペーン」にたくさんのご応募をありがとうございました。読ませていただいたレビューは、熱のこもったもの、愛が溢れているもの、思わず笑えるものなど多彩で、文章からレビュワーさんの人間性が立ち上がってくるような面白さがありました。
楽しい文章ばかりで甲乙付けがたいのですが、「紹介作品を読みたくなるか」という観点から4つを選出しました。あらすじを簡潔に説明し、自分がなぜこの作品を推したいのか語り、どんな人に読んでほしいか案内する。文章技術と熱量と視野の広さを併せ持ったものが、「読ませる力」のあるレビューなのかなと考えます。
レビューとは、自分に刺さる作品へと導いてくれる灯台のような存在。そんな考えで、今後も書籍化作品を探すときの目印のひとつとさせていただきます。
あらすじとタグから物々しい雰囲気が漂っていたので、読むことに覚悟が必要になるかな、と自分を鼓舞して読み始めたのですが……ジャンルを確認して納得しました。こちら、紛れもなく『恋愛』ジャンルとなっております。しかも純愛です。
200年前に身売りされて村人に信仰として殺され、桜の木に遺灰を撒かれて幽霊になったおちよと、そんな彼女を成仏させるために奔走する神職の金朗。金朗も戦争を経験していたりと、二人ともなかなかに重い過去を背負っていますが、前向きに成仏活動に取り組んでいました。そこで花開くのです、愛という桜が。
民俗学的な要素があるとのことで、専門的な内容なのかと身構えていたのですが、とてもわかりやすく書かれていて、難なく物語に没入することができました。『花咲爺』という馴染みのある題材だったのも興味をそそられました。
きっと、もっと高尚に難しく書こうと思えば、作者様の文章力なら軽々とできるはずなんです。でも、それをしていない。わかりやすい言葉を組み合わせて読者の想像力を掻き立てる。そういう意味でも『優しい』作品だなと思いました。
そして、幽霊と人間の心の揺れが、とても繊細に表現されていて胸打たれました。成仏するともう金朗に会えなくなってしまうおちよの葛藤と、幽霊だからこそ成仏させてあげたい金朗の愚直さが本当に愛おしくて……過去から現在、そして未来へ移り変わったおちよが咲かせた桜をぜひ見ていただきたいです。この物語には、最高のハッピーエンドが待っています。
誰もやりたがらない。しかし、誰かがやらなければならない。
数ある警察の部署の中でも、その性質上『なんでも屋』『貧乏くじ係』と揶揄される生活安全課防犯係。
多忙をきわめる部署にもかかわらず、日の目を見ることのないその係に配置されて七ヶ月。今日も今日とて行方不明者を捜す主人公の詩織はため息が止まりません。
ただ、ひと口に行方不明者といっても、その事情は千差万別です。
早急にみつけださないとまずい案件もあれば、いや、これはむしろ、みつからないほうがいいのでは……? というものも。
ため息をつきつつも、ひとつひとつの案件に体あたりでぶつかっていく詩織。まっすぐすぎて少々危なっかしいのですが、直属の上司である鷹取部長やら係を指揮する谷上班長やら、彼女をサポートする上司陣が非常にかっこいいです。
警察官であるかぎり、法は遵守しなければならない。でも、だからこそ、彼ら彼女らはその中で『最善』を模索する。
ときには愚痴もこぼせばため息もこぼす。そんな等身大の登場人物たちが織りなすリアルな警察小説であり、骨太な人間ドラマです。光のあたらない場所にこそ、本物のヒーローがいるのかもしれません。
導入話を拝読した直後に、
文句なしの星三つを献上した、とんでもないポテンシャルを秘める歴史超大作です。
民俗学や宗教史に詳しい方なら、冒頭のエピソードだけで、作者様がこれから描こうとしている物語の顛末が先読みできる仕様です。
盛大なネタバレを、一番最初に持ってくる作者様の大胆不敵さは、まさに本作の主人公、毘沙門天の如し。
そして、どっしりとした地の文章に支えられた骨太ストーリーは、硬派でありながら説明的になりすぎず、しかし必要不可欠な描写は端的に入れてあり、
歴史物ニガテ、宗教分からん勢も含めた不特定多数への心くばりを感じる、とても丁寧な作品です。
何より、下調べの奥行きの深さと幅を読み進めるたびに、ひしひしと感じる情報量の豊富さ。
この作品のために、いったい寺社仏閣へどれだけ足を運んだんだろうと、感嘆するばかりです。
文章そのものは、ライトノベルからはトンとかけ離れています(笑)
しかし、だからこそ、その上で踊る登場神仏たちの個性豊かな言動が軽やかに際立ちます。
最強クールなナイスガイなのに、どこか抜けてる毘沙門天(主人公)。
どうしてここまで……不憫属性が極まるかつてのインドラの王、帝釈天。そして、不遇のラーヴァナ(毘沙門天の弟)。
極めた悟りはどこ行った——新興勢力にグイグイ来られて、日和って踊る如来さま方。
異能の最高傑作、神仏もその力の源は、取りも直さず、絶対的な信者の数!
仏教の生まれた国、インドで巻き起こる新旧混合宗教間の葛藤を、神仏視点で綴ると、これほど心躍るエンタメになるのかと舌を巻きます。
インドで最も影響力のある宗教が何かは、我々もよく知るところ。
本作は、本国で一時期の勢いを失った仏教(如来&菩薩たち)が、自分たちの存亡を賭けて東方へと活路を見出そうと奮闘する様を描いた新規信者獲得・陣取り合戦(神仏視点)です。
その仏教伝播を一任された毘沙門天率いる夜叉一族の東方遠征(時々、楽しい遠足)の先に待ち受けるものとは——?
宗教カスタムしてしまう少数民族相手に、果たして仏教は生き残ることができるのか——?
大日如来「ええんやけど……何か、思てたんとちゃう……」←多分、こうなる。
ふと目に留まった、【守って死ぬくらいの覚悟はあるの。】のキャッチコピーに惹かれ、つい手を出してしまったこの作品。まさか読了後、即2周めを走るくらいの沼にはまることになるとは思ってもみませんでした。遅読なもので、滅多にそういうことは出来ないのです。
twitterで読了ツイートをしており、この小説のツイを見返すと『面白い』『好き』しか言葉を知らないのかという程で苦笑するしかありませんでした。本当に面白くてはまった小説に対して『大好きです!』以上の言葉を見つけるのって難しくて困りますね。
主人公の玉依は事件を解決するべく、相方となった真方と共に奔走します。その懸命さに好感が持てるのですが、彼女がこれまでの人生で抱えてきた黒い感情もチラチラと見え隠れし、そこを神さまたちからの助言や叱責を受けながら昇華させていくストーリー展開が抜群に魅力的です。神や怪異たちの言葉は終始この物語の軸となって、玉依にも読者にも刺さり続けます。
そして相方である真方さん。荒くれ副住職ですがいろんな意味でグイグイ抉られる。この人にハマらない女子っているんでしょうか。いやいや絶対いないでしょ!と断言できちゃうカッコよさ。はぁ〜、好き。
ほのかなようで、濃密に描かれるふたりの恋愛模様もこの小説の推しポイントの一つ。とても大事なことなのでもう一度言いますね。『ほのかなのに濃密』。これに尽きる。カップル推しってこういうことかと噛み締めてます。はぁ〜〜、大好き〜〜〜。
こんなに好きと思える小説に出会えたことは私にとって本当に幸せで、ものすごく嬉しいことでした。
同じ幸運をつかむ方が、一人でも現れますように!