読了後の余韻が心地良い、深いけどお堅くない、そんな純愛作品です。

あらすじとタグから物々しい雰囲気が漂っていたので、読むことに覚悟が必要になるかな、と自分を鼓舞して読み始めたのですが……ジャンルを確認して納得しました。こちら、紛れもなく『恋愛』ジャンルとなっております。しかも純愛です。

200年前に身売りされて村人に信仰として殺され、桜の木に遺灰を撒かれて幽霊になったおちよと、そんな彼女を成仏させるために奔走する神職の金朗。金朗も戦争を経験していたりと、二人ともなかなかに重い過去を背負っていますが、前向きに成仏活動に取り組んでいました。そこで花開くのです、愛という桜が。

民俗学的な要素があるとのことで、専門的な内容なのかと身構えていたのですが、とてもわかりやすく書かれていて、難なく物語に没入することができました。『花咲爺』という馴染みのある題材だったのも興味をそそられました。

きっと、もっと高尚に難しく書こうと思えば、作者様の文章力なら軽々とできるはずなんです。でも、それをしていない。わかりやすい言葉を組み合わせて読者の想像力を掻き立てる。そういう意味でも『優しい』作品だなと思いました。

そして、幽霊と人間の心の揺れが、とても繊細に表現されていて胸打たれました。成仏するともう金朗に会えなくなってしまうおちよの葛藤と、幽霊だからこそ成仏させてあげたい金朗の愚直さが本当に愛おしくて……過去から現在、そして未来へ移り変わったおちよが咲かせた桜をぜひ見ていただきたいです。この物語には、最高のハッピーエンドが待っています。

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