同じクラスの鷲宮くんに片想いしている湖白ちゃん。
放課後、彼の部活終わり。人目を避けるような場所で待ち合わせをして一緒に帰る二人。
もちろん付き合ってるわけじゃない。この不思議な距離感の理由は、物語の中盤で明かされます。
片想いはどれも甘酸っぱいものだと思っていました。
だけどそれは、苦しいことも悲しいことも乗り越えて、最後には必ず好きな人と結ばれることが約束されているヒロインだからです。
一人のヒーローに対して、ヒロインは一人だけ。誰かと同じ人を好きになった時、全員がヒロインにはなれない。
「自分はヒロインではない」と自覚しながらも、鷲宮くんのために努力する湖白ちゃんの姿は、きっと共感できる部分が多いはず。
自分のダメなところ、足りないところばかりが目について。完璧にならないと彼に相応しくないと焦って。努力を認めてほしくて。少しずる賢いことにも手を出してしまうくらい好きで、それでも、彼の一番にはなれなくて。
恋の歌をそのまま音読しているような文章に、切なさと甘さとほろ苦さを感じられる作品です。
ハッピーエンドで終わるアオハルの片隅に落ちた影に、少しだけでも目を向けてみませんか?
まずは、各章のサブタイトルにご注目ください。
最初は『パスティヤージュ』。
「口の中でとろけるような」という意味を持つ、ウェディングケーキ等の飾りに使われるシュガークラフト。
彼のために英語の自習をして、彼と会える時間が楽しみで愛しくて。
でも大好きだから臆病にもなる……砂糖菓子のような気持ちを、そっと抱えている主人公。
そんな主人公、湖白を応援しながら読んで行くと。
『キャラメリゼ』『アフォガード』と進み、最後は『クランブル』。
そぼろ状になった生地の事。
その意味は「ぽろぽろと崩れる」。
綺麗事だけでは無い、湖白の恋。
彼女と一緒にぜひ、その切なさを追いかけてみてください。
鷺宮くんに恋をした湖白ちゃんの、ほろ苦い恋の物語。
二人は、誰にも見られないような場所で待ち合わせをして、一緒に下校する。
その理由は後から語られるが、鷺宮くんとの些細なやりとりでも喜ぶ湖白ちゃんは、健気で可愛い。
湖白ちゃんは、恋する女の子の裏側全部を見せてくれる。
そこは綺麗事だけでは無い。
少しでも好かれたくて選ぶメイクや髪型、服装。
意識して、無理して、我慢して。
好きな人に好かれたい、という真っ直ぐな思いが眩しい。
努力が全部報われたらいいのに、と応援する一方で、ドロドロした嫉妬や狡さも正直に受け止める湖白ちゃんの辛さも、理解しすぎるほど理解できてしまう。
パイナップルも、甘いだけじゃなくて、少しえぐみがあって、繊維があって。
キラキラハッピーエンドだけではない青春をぜひ、堪能してみてください。