今回のテーマは「沼らせ男/沼らせ女」。
とても興味深いテーマで、ワクワクしながら読ませて頂きました。
応募作品はどれも素晴らしく、読んでがっかりする作品はひとつもありませんでした。 どの物語にも人を愛する事のどうしようもない感情や、時に息苦しくなるほどの切実さを感じました。
恋愛に関する「沼る」と言う言葉は、その恋愛に夢中になりハマって抜け出せない状態にある事ですが、 応募作品はどれも「沼る」という言葉だけでは言い表せられないほど、切実で、純粋で、情熱的でした。
各作品を読んで思った事は「沼る」という状況は、実は幸せな事なのではないかという事です。 これだけの慕情、これだけの愛を持って一人の人を愛する事は、かけがえのない事であり、愛にもがき苦しみながら、それでも愛に生きる作中の人々を羨ましくさえ思いました。
最後にこのテーマで作品を応募して下さった皆様、本当にありがとうございました。 心より感謝致します。

ピックアップ

逃れられない沼に堕ちていると分かっていても、そこで溺れたい恋がある

  • ★★★ Excellent!!!

この作品の魅力は美しいほど聡明な年下の男のズルさと、その魅力の「沼」に抗いながらも自ら足を踏み入れてしまう主人公の揺れ動く心模様にあると思います。

主人公は自ら高嶺の花を演じる魅力的な女性ですが、どこか冷めていて心渇いているように思います。

そんな彼女が出逢ったのはカフェで働く年下の男。
この物語が魅力的なのは恋の主導権の見せ方です。これまで追いかけられる恋ばかりしていた主人公が年下の男に恋の主導権を奪われてしまう。
それまで築き上げた高嶺の花である自らの城を、この男性は甘く優しく、そして美しく壊し、自らの沼に彼女を引きずり下ろします。

物語の後半、二人は夜の海へ向かいます。
距離を縮めたい主人公と、彼女の気持ちを知りつつ、決して自ら彼女へ近づかない年下の彼。この二人の心模様が夜の海の静けさと、暗く深い、恋の深淵の沼に堕ちる主人公の心理が重なり引き込まれました。
ニクいほど魅力的な「沼らせ男」を体感できる素晴らしい良作でした。

(「沼らせ男/沼らせ女」 恋愛ショートストーリー特集/文=カフカ)

恋の虚しさと儚さに心浸して、真実の愛を求める物語

  • ★★★ Excellent!!!

人を本気で好きになればなるほど、相手の心が自分から離れていることが分かってしまう事があります。
目を背けようとしても、残酷なほど心が気付いてしまう。

冷たい雨を背景にこの物語は静かに、そして狂気にも似た冷たさで、人を愛する事の難しさや儚さを教えてくれます。

心離れていく彼氏の存在を感じながら、その寂しさ、虚しさからSNSで繋がった彼以外の男と体を重ねても、どこか満たされない空虚感を感じ、男の甘い言葉にも空々しさを感じる主人公。

物語の中で主人公の女性は愛情について、このように語ります。
「どちらかが重いから、片方は浮くんです。シーソーみたいに。平等なんか、どこにもない」
これほど恋愛の不条理と真実を表した言葉はありません。

恋愛をしていて自分と相手との想いの差を感じ「あれ?自分だけ?」と思うことは誰しも経験があると思います。

恋の虚しさを知っていても確かな愛を求める心がある。
降り続く冷たい雨が主人公の心理と重なり、恋というどうしようもない沼を描いた見事な良作でした。

(「沼らせ男/沼らせ女」 恋愛ショートストーリー特集/文=カフカ)

離れようと思うほど、離れられない。やっかいで、甘美な恋という足枷

  • ★★★ Excellent!!!

ズルい男ほど、どうしてこんなに魅力的なのだろう。
主人公の女性は同じ大学のゼミの一つ年上の先輩に想いを寄せ、心惹かれている。
そんな主人公の気持ちを知りながら男は恋人を作り、その恋人と同棲するために主人公の女性と同じ街に移り住み暮らし始める。

ずっと友達関係だった二人は、過去に恋人になれる機会は沢山あったのだと思う。
けれどこの男は確かな関係になる事をどこか避けているように思います。
友達という関係では収まらない主人公の恋心を知りながら、彼女の心を弄ぶ男のズルさ。
読み進める内に報われない主人公に同情しながらも、このズルさを持つ「沼らせ男」に魅力を感じてしまいました。

恋は逃れられない足枷のように思います。
離れようともがくほど、その足枷の存在がくっきりと体と心に食い込んで離れられない。
そんな「沼らせ男」の魅力をドロドロとした描写ではなく、美しい情景描写と、切なくも心に残る心理描写で描かれた素晴らしい作品でした。

(「沼らせ男/沼らせ女」 恋愛ショートストーリー特集/文=カフカ)

先が見えない二人だからこそ、繋いだ心の先に見える光がある

  • ★★★ Excellent!!!

どんなに惹かれあった恋愛にも障害は付き物です。
特にこの物語の二人には幾つもの障害があります。
女性同士の恋愛である事、不倫関係である事、年の差がある事。
そんな幾つもの障害があるこの物語を読み進めていく内に、傷みにも似た切なさと、人を愛する事の尊さを感じました。

二人の状況は泣きそうなくらい切実であるにもかかわらず、この物語から感じる温かさや、優しさの源は二人が求め合う愛である事に他なりません。
自分の心に正直に生きる事は決して正しい事ばかりではなく、時に身近な誰かを傷つけてしまう事があります。それにもかかわらず、たとえ誰かを傷つけても激しく求める愛があるのではないでしょうか。

この物語が教えてくれるのは、そんな正直に生きる事の難しさ。
そして、愛する「沼」である人の存在は、決してネガティブなものではなく、眩しいほど光射す、かけがえのないものにもなりうるという事。
それをこの僅か5000文字に満たない二人の物語から感じる事ができました。
本当に素晴らしい作品です。

(「沼らせ男/沼らせ女」 恋愛ショートストーリー特集/文=カフカ)