逃れられない沼に堕ちていると分かっていても、そこで溺れたい恋がある

この作品の魅力は美しいほど聡明な年下の男のズルさと、その魅力の「沼」に抗いながらも自ら足を踏み入れてしまう主人公の揺れ動く心模様にあると思います。

主人公は自ら高嶺の花を演じる魅力的な女性ですが、どこか冷めていて心渇いているように思います。

そんな彼女が出逢ったのはカフェで働く年下の男。
この物語が魅力的なのは恋の主導権の見せ方です。これまで追いかけられる恋ばかりしていた主人公が年下の男に恋の主導権を奪われてしまう。
それまで築き上げた高嶺の花である自らの城を、この男性は甘く優しく、そして美しく壊し、自らの沼に彼女を引きずり下ろします。

物語の後半、二人は夜の海へ向かいます。
距離を縮めたい主人公と、彼女の気持ちを知りつつ、決して自ら彼女へ近づかない年下の彼。この二人の心模様が夜の海の静けさと、暗く深い、恋の深淵の沼に堕ちる主人公の心理が重なり引き込まれました。
ニクいほど魅力的な「沼らせ男」を体感できる素晴らしい良作でした。

(「沼らせ男/沼らせ女」 恋愛ショートストーリー特集/文=カフカ)

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