戦後まもない北海道の農牧試験場に一人の若者が入社する。名前は寺山和樹。農業学校を卒業したばかりの坊主頭の純朴な青年だった。畜牧部に配属された彼は、個性的な先輩たちの元で牧草の研究に従事することに。昭和時代、北海道の発展に携わった農務省の職員たちの物語です。
研究員の朝は早い。早朝から家畜の世話。昼は土を耕し、牧草の種を撒く。新たな牧草を採取しては研究室で分析に没頭する。そして夜は独身寮で酒瓶片手に同僚たちと議論を交わす。己の仕事に情熱を燃やす昭和の男たちが勇ましいです。
ときには劇薬で火傷を負ったり、ときには野焼きで山火事を起こしかけたり、ときには愛馬の死に直面したりと、失敗と反省を繰り返しながらも先輩や上司に支えられながら研究員として成長していく寺山青年の姿に心が揺さぶられます。
昭和天皇の戦後巡幸や札幌オリンピックなどの昭和史に刻まれる出来事を体験しつつ、原野が広がっていた畜牧部にも国道が通り、自動搾乳機やトラクターなど機械化の波が押し寄せる。変わりゆく世の中で寺山たちは日本の発展のため、国民の健康のために北の地で模索し続ける。作者の確かな取材によって描かれるドラマがリアルです。
過酷な大地に挑み続けた研究員たちの努力によって日本の礎は築かれている。知られざる開拓者たちへ自然と感謝の念が湧き上がります。
(「昭和レトロ」4選/文=愛咲優詩)