「そうだ、たまには趣味で選ぼう」というわけで今回は独断と偏見を全開にして、自分の趣味で作品を選ばせていただきました。そうすると、事故物件で暮らす動画配信者、ゾンビとなった母を介護する中年サラリーマン、学校で起きた殺人事件をネタにして遊んじゃう不謹慎な男女、異世界でモンスターと戦った記憶を持つ格闘家、といった具合に際立って変な人たちが登場する作品を選ぶことに……。いや、けど、こういう尖った新作が次々に出てくるのもカクヨムの良さだと思うし、普通に面白い作品と出会ったときよりも、こういうほかで見られない小説を見つけたときの方が嬉しくなってしまうのですが、皆さんいかがでしょうか?

ピックアップ

底辺YouTuberが見た光と絶望

  • ★★★ Excellent!!!

YouTuber。誰でも気軽に動画を撮影できる現在においては、それは最も身近で最も華やかな職業といえる。
しかし光あれば闇あり。人気YouTuberの陰には、ろくに誰にも見られることのない動画が無数にアップロードされ続けるのだ。それでも彼らは少しでも人の目を引くためにあらゆる手段で視聴者を呼び込もうとする。

その極地と言えるのが事故物件――過去に人が殺された部屋――で自分が暮らす様子を配信しようとする本作の主人公だ。
恐ろしいことにこの男が配信する動画が…………本当につまらなさそうなのである。
「小説なのにつまらなかったらダメじゃん」と思われるかもしれないが、ただのつまらなさではない。大した話術があるわけでもなく自身の状況を淡々としゃべるその様子は「あっ、こういう動画見たことある」とつい思ってしまうリアリティのあるつまらなさなのだ。
リアリティといえば、売れないバンドマンとしての来歴や、動画についたコメントで一喜一憂する様子など、一見物語に関係しないような主人公の過去や言動の一つ一つが生々しい。

おかげで主人公の冴えないYouTuberっぷりに拍車がかかり、最初は彼の日常に対して哀れさすら感じてしまう。
だが、物語後半で動画に幽霊らしきものが映り込んでくると、話は大きく変わる。これまで底辺YouTuberの悲惨さを強調する役割だった生々しさが、主人公を襲う怪奇現象に臨場感をもたらす極上のスパイスとなるのだ。

どうすれば人を怖がらせられるのか、という問いに対する一つの答えのような作品だ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

重要なのは事件の真相ではなく面白さ!?

  • ★★★ Excellent!!!

ある日、校内で起こった殺人事件。日常に退屈していた主人公たち、男女三人は事件の謎を追うことにした……と説明すると普通のミステリーっぽいのだが、本作が特徴的なのは彼らが行うのが、「探偵ごっこ」ではなく、「脚本家ごっこ」という点だ。

では脚本家ごっことは何か。作中の台詞を引用すればこういうことだ。
「つまりね。今回の事件を面白おかしく説明をしようって訳。どういう動機で、どういう方法が取られたか、一番面白い筋を書いた人が勝ちね」

とんでもなく不謹慎な話なのだが、授業をサボったり、ずっと寝ていたりするのが当たり前の彼らにとって、たいして親しくない生徒の死なんてあくまで暇つぶしの材料でしかない。そして、こんな彼等が繰り広げる会話がとても軽やかで読ませるのだ。

謎解き部分がややあっさりとしてミステリーとしては少し弱い部分もあるが、それよりもクラスメートたちとの何気ない会話や、事件を調べる過程で浮かび上がる男一人女二人の微妙な関係性など、青春小説としての側面を楽しんでほしい。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

格闘家は真実と妄想の狭間で戦う

  • ★★★ Excellent!!!

総合格闘家として活躍中の高橋枢名は、ある日奇妙な夢を見る。それは異世界で自分がモンスターと戦う夢だった。
さらに前世で仲間だったという奇妙な男女と遭遇し、徐々に前世の記憶が鮮明に甦るように……
その一方で、自分の記憶とよく似た教義を主張する宗教団体の存在も知ってしまう。

そして枢名はその宗教団体を調査するうちに、一つの可能性に気付いてしまう。
自分が異世界の記憶だと思っている物は、試合でダメージを受けた脳が原因のただの妄想なのでは……?

どこまでが真実でどこまでが妄想なのかわからないまま進行するストーリーに魅了され、一気に最後まで読まされてしまう本作。
序盤から張られていた伏線が終盤で見事に収束しているのは実にお見事。

ストーリー面以外でも格闘技の試合描写がとっても熱かったり、枢名の前世と現世をつなぐヒントが「蠅」だったりと、他の作品ではあまり見られない要素が随所に散りばめられているのにも要注目だ!

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)