ヒロイックファンタジーやスペースオペラ等々、最近は特定区分をご紹介しておりますが、今回は現代ドラマの回となります。そして取り上げさせていただくテーマは、ずばり「社会の問題」!
 現代ドラマは現代を舞台にしていればよしというジャンルですから、内容もまた青春もの、お仕事もの、人間ドラマ等々、多岐に渡ります。でも、理由は多々あれど現代社会だからこそ抱え込んでしまう問題群——社会問題という大きなくくりに入らないものまで含めて——は、まさにこのジャンルでしか語れない題材なのです。
 普段は暗がりに隠れていて見えないけれど、気づけば我々のすぐとなりにある社会の問題。ここから、それを描き出した4作品をご紹介させていただきます。けして甘いわけではないけれど、読後にふと鼻先を撫ぜていく感慨、味わっていただけましたら幸いですー。

ピックアップ

柔軟剤はいいにおい! そうだったはず、なのに

  • ★★★ Excellent!!!

 みーやちゃんは仲の良いふーくんの服からする柔軟剤の甘い匂いが大好きだった。だがある日、いつもと同じようにふーくんと過ごしていたみーやちゃんは突然意識を失い、病院へ搬送されることに。そしてふーくんは知らされる。みーやちゃんが微量の化学物質に触れるだけで様々な症状を引き起こしてしまう化学物質過敏症(CS)を発症したのだと。

 化学物質に満ち満ちた現代社会では誰もが発症する可能性のある化学物質過敏症。本作はそれを発症してしまったみーやちゃんの辛さと、彼女を大事にしたいふーくんの奮闘を描いています。

 絵本を思わせる文章運びは読者年齢層を選ばず内容を伝えてくれますが、描き出されるみーやちゃんの絶望はおそろしく深く、辛いものです。でも、だからこそ空回りして失敗して、でも友達のため前向きにがんばるふーくんの意気が、彼女と読者の胸に染み入るのです。

 もし自分が発症してしまったら、もしくは周囲の大切な人が発症してしまったら。読み終えた後考えてみていただけましたら。


(「社会の問題、その“今”を切り取る!現代ドラマ4選」/文=高橋剛)

ニート更生から始まる家族再生の物語。

  • ★★★ Excellent!!!

 中学時代からすでにいろいろ怪しかった愛娘、渡貫志帆は32歳になった今、体重88.8キロのニートとして売れ行きのよろしくないBL同人誌制作に勤しんでいた。元気ではあるようだが、さすがにこのままではいけない。父である雅人は逸らしてきた目を今一度志帆へ向けることを決意。彼女を更生へと導くべく動き出したのだが、事態は思わぬ方向へ!

 真面目な父によるニート娘更生記、ではありません。志帆さんと向き合うことを決めた雅人さんは突きつけられるのですよ。とある事情で社会から自分を断絶せざるを得なかった志帆さんの苦しみを。

 それは普通の人である雅人さんにとって理解し難いもの。しかし彼は今度こそ目を逸らさず、多くの傷を抱えてそれでも独りあがいてきた娘へと向かうのです。それだけはけして揺るがない家族の絆を手繰って! この力強いカタルシス、実にすばらしい。

 コメディから家族ドラマへ転じ、なんとも意外なオチに行き着く本作。読めばちょっと元気になれますよ!


(「社会の問題、その“今”を切り取る!現代ドラマ4選」/文=高橋剛)

その正義を燃え上がらせたものは私情という小さな火種だった

  • ★★★ Excellent!!!

 元は技能実習生だった不法就労者を安く雇い、人材確保と人件費節約を両立させている都内の某焼肉店。オーナーであり店長である“俺”は今日も今日とて商売に励んでいたのだが。新しくバイトに入った大学生、松本孝則が裏方のエース格であるミン・リーと仲を深めたことをきっかけに、彼の築き上げた店は瓦解する。

 不法就労者という切り口にまず目を惹かれる本作ですが、皆から「店長」と呼ばれる主人公の有り様に思いきり惹き込まれました。

 彼はもちろんなにひとつ正しくないし、恰好いいはずもない。でも、そのドライで強かな有り様は正しくないことを貫こうという覚悟であり、独特なハードボイルド感を醸し出しているのですよね。だからこそ、松本くんがもたらす破滅へ対しての返し——こちらは本編でご確認を!——には強い説得力が宿り、さっぱりと切れのいいほろ苦さをもたらしてくれるのです。

 自分の心にある正しさ、それは本当に正しいものなのか? 読後に考えてみずにいられない一作です。


(「社会の問題、その“今”を切り取る!現代ドラマ4選」/文=高橋剛)

おそろしく遠いあたりまえの生活を求める少女たちがいた

  • ★★★ Excellent!!!

 風俗で働く少女きららと偶然に知り合った“僕”は、店ではなく彼女の家へ招かれた。そこで彼女は同僚である彩香、里乃と共に暮らしながら、現在の貧困を抜け出して普通の生活を手に入れるという共通の夢を叶えるつもりなのだという。なんとか力になりたい。その思いを告げた彼に彩香が言う。「私たち三人を幸せにするお手伝いをしてくれませんか。」と。

 貧困は根深い問題で、努力だけで覆せるものではあり得ません。でも、それを手伝う誰かの手が添えられたなら? そう、本作の見所は、ほんのささやかな助力を得た少女たちそれぞれが抱えた傷を克服し、自らを再生していく過程にこそあるのです。

 彼女たちは“僕”と共に姦しくて穏やかな日常を送ります。そしてその中で幸せになる練習をして、ついには望んだ普通の生活へ進んでいく。そんなカタルシスをじわじわっと味わわせてくれる構成、本当に素敵なのですよねぇ。

 縮こまった心になにより効く、小さくてやさしい奇蹟の物語です。


(「社会の問題、その“今”を切り取る!現代ドラマ4選」/文=高橋剛)