何もしないでお財布の中身が何倍にもなることもあれば、何もしてないのに綺麗さっぱりすっからかんになることもある。それがギャンブル。最近はいろいろとコンプラが厳しいので、「めっちゃ勝った!」とか「洒落にならんぐらい負けた……」なんて話は気軽にやりづらくなっていますが、フィクションの中の話ならば問題ないでしょう。
 というわけで、今回はギャンブル特集です。競馬、ポーカー、パチンコ、麻雀と扱っているギャンブル自体は王道ですが、馬と話せる中学生が主人公だったり、スキルや魔術が飛び交ったり、AIと人類が鎬を削ったりと個性的な作品をピックアップしました。どうぞお楽しみください。

ピックアップ

女子中学生の視点から、競馬の世界の魅力を余すことなく描く!

  • ★★★ Excellent!!!

 中学生の加賀屋志穂は、娘を置き去りにして勝手に北海道で牧場を始めた父と4年ぶりに同居することに。都会暮らしから広大な大自然に囲まれての新生活、だが、そんな変化が気にならないほどの衝撃を志穂が襲う。牧場の馬が喋っている言葉が聞こえるのだ! さらに馬も志穂の言葉を理解している。こうして、馬と会話ができるという特異すぎる才能を持った志穂は馬たちの願いを叶えるために、そして競馬の世界に足を踏み入れる!

 まず素晴らしいのは競走馬それぞれのドラマである。志穂が世話をする馬たちには順風満帆の馬など一頭もいない。そんな燻っていた馬たちが志穂との交流を経て自分の走る道を見つけ出していく過程が実に良い。また馬だけでなく騎手を目指す学校の先輩を始め、牧場で働く人々や、馬主たちに至るまで、登場する関係者一人一人が印象的なエピソードを持っており、大変読み応えがある。

 そして特殊な才能は持っていても馬の世界は初心者の志穂の目線で話が描かれるため、競馬を知らない人でも競馬の世界をしっかり知ることができるのが大きな特徴。有名なレースの種類や馬券の買い方といった基本はもちろん、騎乗のコツや出産時の注意など普通の作品ではあまり触れられないところまで、競馬という文化そのものを余すことなく描こうとする熱意に溢れている。

 競馬ファンはもちろん、ウマ娘などの影響で、競馬に興味を持ち始めた初心者にも自信を持ってオススメしたい作品だ。


(「人生を賭ける人たち! ギャンブル小説特集」4選/文=柿崎憲)

冒険者の価値はポーカーで決まる!?

  • ★★★ Excellent!!!

 パチンコ屋で全財産を失った直後に、隣で打ってた神によって異世界に転送された伏見遊都。確率を操作する特殊なスキルも得て、自分と同じく日本からの転移者の徳川巴も仲間にして冒険者デビュー。ここに冒険の日々が始まる!!……と思いきや、そう一筋縄ではいかないのが本作の魅力。

 この世界の冒険者のシステムは少々変わっており、ランクを上げるためにはテキサスホールデム、すなわちポーカーで他の冒険者に勝たなくてはならないのだ! しかもただのポーカーではなくゲーム中にスキルを使用可能な変則ポーカー! かくしてレベルを上げるためにモンスターと戦い、ランクを上げるためにポーカーで戦う異色の異世界ライフが始まる。

 元ポーカープレイヤーの遊都が、初心者の巴にルールや戦術を実践で教えていく構成のため、ポーカーに馴染みのない人でも楽しめるし、互いのスキルが乱れ飛ぶポーカーは通常のセオリーを超えて独特な心理戦を見せてくれる。

 また元の世界に戻る手段を探す過程でこの世界に隠された秘密に明かされていくという、王道の異世界ファンタジー要素もしっかり抑えられていて、一作で複数の楽しみを味わえる作品だ。


(「人生を賭ける人たち! ギャンブル小説特集」4選/文=柿崎憲)

魔法VSパチンコ。

  • ★★★ Excellent!!!

 いつものように休日に『俺』がパチンコを打っていると、隣に黒いローブにとんがり帽子といかにも魔女らしい服装の美女が座る。場に似つかわしくないこの女が座った台の動きを見ると、玉が異様な動き方を……。そう、このコスプレ女の正体は異世界からやってきた魔女で、魔法を使ってパチンコを攻略しようとしていたのだ!

 魔法が使えるなら何でもありじゃないかと思われるかもしれないが、使える魔法の回数制限や魔力の限界によって、毎回大勝利とはいかず結構負けていたりする。『俺』も魔法のおこぼれに預かって勝つこともあれば、逆に足を引っ張られて負けたりと悲喜こもごものパチンコライフが楽しい。

 魔女以外にも女騎士や聖女、魔王に勇者と異世界の住人が定期的にやってくるのだが、基本的には本当に異世界の人々とパチンコを打っているだけで(時々スロット)、ストーリーらしいストーリーはなく、主人公の名前すらろくに明かされないままパチンコ屋での日常が続いていくのだが、『パチンコあるある』を交えながら『実在する機種』で打ち続ける様子が次第にクセになっていくのだ。決して万人に勧められる作品ではない。けれどパチンコ好きの方にはぜひ一読をオススメしたい!


(「人生を賭ける人たち! ギャンブル小説特集」4選/文=柿崎憲)

最強AIが卓上に仕掛けたトリックを人類は見破れるのか?

  • ★★★ Excellent!!!

 AIの進化によって、将棋やチェスといった互いにすべての情報が与えられる完全情報ゲームでは、人間はAIに勝てなくなった。だが、そんな中でもまだ人類が勝てる可能性があるゲーム、それが麻雀である。牌が伏せられ、相手の手牌は見ることができず、何より勝敗を分けるにあたって運の要素が大きすぎる。そんな麻雀の世界で人間とAIが戦うトーナメント大会を描くのが本作品。

 かつての大会では人間がAIを圧倒していたが、時が経つにつれてAI側が優勢になっていき、今大会ではとうとうAI側が超一流の雀士たちを下し始める。伝説の博奕打ちの後継者である主人公はこのAIたちの異常な強さの正体を見極めようとするが……。

 AI対人間という題材は現代で多くのジャンルで見られるが、本作ではそれと同時に『麻雀放浪記』を始めとする麻雀小説や麻雀を扱った劇画では古くから扱われる、ある古典的なテーマを扱っている。それは「敵はどのようなイカサマをしているのか?」

 麻雀という運が絡む遊戯では絶対勝者など存在せず、もし必ず勝っている者がいるならば、絶対に何らかの仕掛けをしているはずなのだ。はたして主人公は最先端のAIが卓上に仕掛けたトリックを見破れるのか? AIという最新の題材とイカサマという古典的なテーマを組み合わせた最先端の麻雀小説だ。


(「人生を賭ける人たち! ギャンブル小説特集」4選/文=柿崎憲)