その正義を燃え上がらせたものは私情という小さな火種だった

 元は技能実習生だった不法就労者を安く雇い、人材確保と人件費節約を両立させている都内の某焼肉店。オーナーであり店長である“俺”は今日も今日とて商売に励んでいたのだが。新しくバイトに入った大学生、松本孝則が裏方のエース格であるミン・リーと仲を深めたことをきっかけに、彼の築き上げた店は瓦解する。

 不法就労者という切り口にまず目を惹かれる本作ですが、皆から「店長」と呼ばれる主人公の有り様に思いきり惹き込まれました。

 彼はもちろんなにひとつ正しくないし、恰好いいはずもない。でも、そのドライで強かな有り様は正しくないことを貫こうという覚悟であり、独特なハードボイルド感を醸し出しているのですよね。だからこそ、松本くんがもたらす破滅へ対しての返し——こちらは本編でご確認を!——には強い説得力が宿り、さっぱりと切れのいいほろ苦さをもたらしてくれるのです。

 自分の心にある正しさ、それは本当に正しいものなのか? 読後に考えてみずにいられない一作です。


(「社会の問題、その“今”を切り取る!現代ドラマ4選」/文=高橋剛)