新年あけましておめでとうございます。昨年はカクヨムコンにカクヨムU-24と公式審査員を二回もやらせていただきました。公式Discord配信にも何度か出演させていただいて、露出の多かった年だったなと思います。今年も引き続き、皆様のご期待に添えるように勢いにのって頑張って参りたいと思います。よろしくおねがいします。さて今回は『金のたまご』回です。新年に相応しいフレッシュな作品を選んでみました。それはいつものことですが、新しいという意味の言葉もさまざまです。斬新性と新規性はまた別の言葉ですし、新品と新装も違います。新築、新調、新型、新種、新手、新風、新鋭、新顔、新参、新生……。作品それぞれに違った新しい魅力があります。皆さんも独自の新しいを探してみてはいかがでしょうか。
異世界の片田舎の小さな商会の息子ヘインとして転生した元商社マンが、赤字続きの商会を盛り返し、地元のオルネ村のために奔走する異世界経営ファンタジーです。
主人公ヘインの行動力と決断力で先細りする地元経済の改革に乗り出す展開に胸が踊ります。
オルネ村の工芸品は品質もよく、職人は勤勉で技術力も高い。しかしデザインが古く、販路も小さい。ならばデザインを一新して、大都市で売ればいいじゃないかと考えるのは誰でもできそうですが、その足で村を飛び出して大商会や貴族と顔を繋いでいく実行力は、なかなか真似できない。
職人を雇って生産ラインを整えたり、各地を歩き回って新たな商材を発掘したり、荷物を運ぶための海運業者を探したりと、みずから各地を歩き回る。営業、バイヤー、生産と流通の責任者、本来なら専任者を置くべき業務を一人で何役もこなす大活躍に圧倒されます。
ひとつひとつは決して大きな儲けではないけれど、汗を流してコツコツと積み上げた行動が成功へと結びつく、その仕事の達成感が彼の生き甲斐なのだと思うのです。
そんなことができるのも己の才覚だけでなく、村の職人や農家が作る生産物が素晴らしいと信じているからなんですよね。リスクを恐れずに行動すること、そして人と人とのつながりを大切にすること。どんな職業であれ、どんな人生であれ、成功を掴むための必須スキルなんだと思います。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)
秋月谷高校に転校してきた宝生友斗は、すでに出来上がっていたコミュニティに入ることに失敗し、「ぼっち」になってしまう。そんな彼が、ひょんなことから学校一のクール系美少女の天上甘那も「ぼっち」でいることを知り、二人は協力して「脱ぼっち」を目指すことに。
「ぼっち」で人付き合いの距離感がおかしいヒロインたちとの掛け合いが面白いです。
高嶺の花オーラを放ちすぎて誰も寄り付かない天上甘那。八方美人すぎて本性を出せない仮織辛燐。厨二病をこじらせて孤立した志築静莉。中身は普通の女の子なのに、それぞれ複雑な事情で他人と本音で向き合えない、ぼっち美少女たちがそれぞれ残念で可愛いんです。
そんなヒロインたちと放課後に部活動を始めて、流行りの遊びを体験してみたり、動画投稿に挑戦してみたり、本当の友だち作りの練習をする光景が賑やかで楽しい。
ときには慣れない人間関係に戸惑い、ときには口喧嘩やすれ違いをしながら、いつの間にか打ち解けているんですよね。もう君たちはすでに仲良い友達なんじゃないのかい?と思いながら痴話喧嘩やプチ修羅場を繰り広げる部活動の様子にニヤニヤしっぱなしです。
人間関係は悩みの多い話題ですが、どこまでが知り合いで、どこからが友達なのか。そんなのは本人たちの気持ち次第なのかもしれません。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)
平凡な男子高校生の八乙女誠一は、ある日、妹の遥香から「自分の代わりにハーレムを作ってほしい」という奇妙なお願いをされる。兄にハーレムをねだる妹と、妹のためにハーレムを目指す兄。ヘンテコ兄妹の繰り広げる学園ラブコメです。
ハーレムものが好き、だから現実でもハーレムが見たいという自分の性癖に正直な妹の遥香の無茶振りが愉快です。
ハーレムを作れる魅力的な男性になるためには勉強と運動だ!と妹にそそのかされるまま従う兄の誠一。
最初は半信半疑ながらも、その過程で疎遠になっていた幼馴染のお姉さんと寄りを戻したり、留学生の外国人美少女と親しくなったり、ランニング中に暴漢に襲われている女性中学生を助けたり、何故か女の子との出会いや交流が生まれていくから侮れないんです。
ただ本人が気づいていないだけで元から勇気や優しさ、誠実さ、魅力的な素養はあったんですよ。必要だったのは少しのきっかけ。これって誠一だけが特別なんじゃなくて、誰にでも当てはまることだと思うんです。自分のなかの情熱に気づく、その思いが自分の人生を変えるスタートなんですよ。
ハーレム作りを通して人生を作る。果たして兄妹のハーレムは作れるのか? 兄妹の挑戦は始まったばかりだ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)
商店街で青果店を営む秋山真心と、その妻である棗は、店の裏手で「くるみ薬膳庵」という食堂を開いている。そこでは日常に疲れた人々が訪れる。薬膳料理で心と身体に癒やしを与えるヒーリンググルメストーリーです。
薬膳料理といえば、苦い薬草や漢方薬を用いた中華料理のイメージですが、くるみ薬膳庵の料理はひと味違う。
味付けこそ漢方のスパイスや発酵調味料を用いているが、シチューにフライドチキン、ロールケーキといった洋風メニューも取り揃え、お客様のその日の体調に合わせた料理が提供されるところが魅力です。
そんなくるみ薬膳庵には、さまざまな悩みや事情を抱えた人が訪れる。クリスマスイブに残業するOL、職場や家庭に居場所のない中年男、子育てと家事に疲れた若い主婦……。厳しい現実や社会の荒波に疲弊した人々を無口で店主の真心と、お節介焼きな棗が温かく出迎え、つかの間の安らぎを与える。
まるで実家に帰ってきたかのような懐かしさと心地よさに包まれ、二人の料理を口にしてホッと一息ついて、新たな気持ちで日常へと帰っていく。そんな何気ない家庭的な物語がしみじみ心に行き渡る。
毎日を真面目に働くからこそ、ときには自分自身を労わり、家族や恋人との時間を持つことも必要です。そんな日常の忙しさで忘れがちな幸福を、この物語は読者にそっと教えてくれる。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)