新年度が始まって早二週間。皆さまいかがお過ごしでしょうか？ 新生活にまだ慣れないという方もいるかもしれませんが、もういくつ寝るとゴールデンウィークというわけで、がんばっていきましょう！ というわけでフレッシュな気持ちで送る新作特集「カクヨム金のたまご」です！ とはいえ今回紹介する作品は、カクヨムのホラー作品にある傾向を見つけてしまった人による調査結果、冷え切った家庭に悩む女性が庭で見つけた小人たちの戦争、幼馴染がツンデレじゃなくて自分を嫌っていただけと気づいた少年のラブコメ、復讐されることを願って周囲の人間をひたすら追放されるお嬢様と、なんかどれも一癖も二癖もある作品ばかり。読んでいてフレッシュな気持ちにこそなれませんが、どれも面白いことは間違いなしの４作です！
あまり目立たないがカクヨム内で着実に一定の読者をキープしているジャンルが存在する。それが「カクヨムの分析」だ。どのような作品がランキング上位に挙がりやすいのか、どうすればいっぱい★がもらえるのか……そのようなカクヨムで利用できる知識を共有して、より多くの読者の獲得を目指す大変ためになるジャンルである。
本作の作者はこれまで書いていたラブコメジャンルから離れ、ホラー作品に初挑戦するのだが、そこでカクヨムのホラー作品にある重大な傾向を見つけ出してしまう。
「ホラー……読み合いばっかじゃね？」
そう作者はカクヨムのホラー作品は作者たちが互いに読みあっているだけで、純粋な読む専門の読者は少ないのではないだろうか？ という実に挑戦的な仮説を打ち立ててしまったのだ。作者はこの説の正しさを検証すべく、実際に書籍化された作品を例に挙げながら、ホラージャンルの作者たちに取材を行い、カクヨムに潜む闇を調査していく……！
ちなみにこうした分析を行っている作品、カクヨム内のジャンルでは「創作論・評論」に分類されることが多いのだが本作のジャンルは「ホラー」である。……ホラー作品を対象とした分析だから「ホラー」になっているのかもしれないが、いずれにせよ読み続けるにつれてゾッとする気持ちになることは間違いない。カクヨムの中でしか成立不可能な異形の作品だ。
（新作紹介「カクヨム金のたまご」／文＝柿崎憲）
体調を崩して仕事を辞めてしまった小森環奈。同居している義理の母は認知症が進み、夫の帰りはどんどん遅くなる……。そんな日々を過ごす中、彼女は自宅の庭で小人を発見する。自分の正気を疑いつつも、以来ついつい庭の方を目で追う環奈だが、ある日隣に住む白鷺さんから重大な言葉を聞かされる。なんとこの小人は環奈の幻覚ではなく実在した存在で、さらに環奈の庭に住む小人と白鷺さんの家の小人が戦争を始めようとしているのだ！ この戦争をエンタメとして楽しみさらに武器の供与まで行うお隣さんに対し、自宅の小人たちが傷つくのを恐れた環奈はつい武器になりそうな家財を提供してしまう……。
本作でメインとなるのは小人たちとの暖かい交流……などではなく義母の介護に悩まされ夫との関係は冷え込むばかりという、一人の女性の大変鬱屈とした日常。自宅で孤立し精神的に追い詰められる一方で、どんどんエスカレートする小人たちの庭を巡る戦争の対比が素晴らしい。小人の戦争というメルヘンチックな題材を扱いながらも、小人たちが住む庭や家庭で孤立する心情を丁寧に描写することで独自のリアリティを生み出している不思議な魅力を持った作品だ。
（新作紹介「カクヨム金のたまご」／文＝柿崎憲）
ツンデレな幼馴染の二宮凉夏に対して、日々アプローチをしてはそっけない対応をされている男子高校生の榎本彰。しかし、彼はある日重大な真実に気づいてしまう。
もしかして凉夏はツンデレじゃないのではないだろうか……。
そこで勇気を持って確認したところ。答えはイエス。ツンデレじゃなくて普通に面倒くさがられていただけだった…………なんかもういたたまれないよ！
もうこの序盤だけでお辛い気持ちでいっぱいになるのだが、歯に衣着せない友人二人との会話がこの辛さを和らげてくれるので何とか乗り越えられる。ちなみにこの友人は二人とも男子である。クラスの女子に延々とつきまとってストーカー扱いされている男子に女子の友人がいるはずがないもんね。
こうして一度打ちのめされた彰が再び幼馴染との距離を縮めようと頑張る様子がとても楽しい。冒頭こそ暴走していた彰だが、ちゃんと落ち着いてみると行動力もあって発想もユニークで語りも巧みでなかなか良い主人公なのだ。勝手に彼女の交友関係をノートにまとめたりする気持ち悪いところもあるけど……。また実際にはツンデレではなかった凉夏も彰に対してなにやら思うところがあるようで……。一度破綻した幼馴染との関係がどう変わっていくのかぜひ見守っていきたい。
（新作紹介「カクヨム金のたまご」／文＝柿崎憲）
ある朝目覚めると金髪ツインドリルが似合いそうな公爵令嬢のリディアにTS転生していた主人公。少女の体を手にした彼が考えることはただ一つ。
他人からの恨みを買って、あらゆる形で報復されて凌辱されたい……！
そう前世で追放系作品と悪役令嬢作品を好んでいた彼の性癖は色々歪みすぎていたのだ……！ なので急にお嬢様口調でしゃべるようになったリディアは、令嬢の立場を利用して周囲の人間をひたすら追放していく！ しかし、彼女の歪んだ野望とは裏腹に、軍は弱者が振るい落とされる精強な騎士の集団となり、屋敷では他領から忍び込んでいたスパイが追放されて彼女に忠実な人間ばかりが残っていく。かくしてリディアの周りにはやたら優秀な人間が集まり、治安を悪化させるために建てたカジノは膨大な富をもたらして、なんかやることなすこと全てが上手くいってしまう！ こんなことなら勘違い系の作品ももっと読んでおくべきだったね！
こうしてリディアがテンポよく追放を重ねるほど想定に反して、彼女の国内での地位は盤石となり、さらには世界に隠された真実にまで迫って物語のスケールもどんどん大きくなっていく。この勢いがとても強烈でスピード感が強い作品が好きな人にはぜひおすすめしたい。
（新作紹介「カクヨム金のたまご」／文＝柿崎憲）
