家の空気はどんどん冷え込み、庭の戦争は加熱するばかり

 体調を崩して仕事を辞めてしまった小森環奈。同居している義理の母は認知症が進み、夫の帰りはどんどん遅くなる……。そんな日々を過ごす中、彼女は自宅の庭で小人を発見する。自分の正気を疑いつつも、以来ついつい庭の方を目で追う環奈だが、ある日隣に住む白鷺さんから重大な言葉を聞かされる。なんとこの小人は環奈の幻覚ではなく実在した存在で、さらに環奈の庭に住む小人と白鷺さんの家の小人が戦争を始めようとしているのだ! この戦争をエンタメとして楽しみさらに武器の供与まで行うお隣さんに対し、自宅の小人たちが傷つくのを恐れた環奈はつい武器になりそうな家財を提供してしまう……。

 本作でメインとなるのは小人たちとの暖かい交流……などではなく義母の介護に悩まされ夫との関係は冷え込むばかりという、一人の女性の大変鬱屈とした日常。自宅で孤立し精神的に追い詰められる一方で、どんどんエスカレートする小人たちの庭を巡る戦争の対比が素晴らしい。小人の戦争というメルヘンチックな題材を扱いながらも、小人たちが住む庭や家庭で孤立する心情を丁寧に描写することで独自のリアリティを生み出している不思議な魅力を持った作品だ。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)

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