ゾンビ×介護という異色の社会派SF!
- ★★★ Excellent!!!
少子高齢化真っ最中の現代社会において、決して目を背けることができないのが介護問題である。しかし重要な社会問題であっても、普通に書いてしまっては説得力やリアリティの面でノンフィクションに負けてしまう。
どうせ書くならばフィクションならではの一捻りが欲しいものだ。
そして本作で作者が現実を捻るための道具に選んだのが「ゾンビ」だ。
ゾンビ禍によって妻と子を失い、年老いた母親と2人暮らしをするサラリーマンの主人公。しかしある日、医者から母がゾンビになったという宣告を受けてしまう。
ゾンビになった母の面倒を見るという設定は一見ギャグっぽいのだけれど、実際に読んでみるとそんな生易しいものではない。
ときどき異様に怒りっぽくなったり物忘れが激しくなったりする母。主人公はそんな母にイライラしつつも我慢して根気強く接しなければならない。
ずっとこんな調子だったら割り切れるのに、調子のいい時は以前の母と変わりないというのがますます辛い。
これだけだとただの介護ものなのだが、本作では母の病気の進行次第では、母を殺さなければならないというよりキツイ問題が待っている。
かつてゾンビと化した家族を殺した男は、この母とどのように歩んでいくのか。
現実とSF的設定を絶妙に織り交ぜたバランス感覚が素晴らしい一作だ。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)