ある意味で、こんなに深刻なゾンビ小説はない

ゾンビ禍と呼ばれる大事件の後、日常を取り戻した世界でゾンビの驚異はなくなった。表面上は。

ゾンビの発生は根絶できていないが、適切な治療によってゾンビ化は防ぐことができる。人類はゾンビとうまく付き合い始めている。
ただし、兆候の早期発見と適切な投薬が重要となる。
怠れば身内を含めた生活が、人生が崩壊していく……

誰しも自分の愛する人が変わってしまうこと、もう元には戻らないことを簡単には受け止められない。その人の考えや生き方も尊重してあげたい。
そうして問題に踏み込めず、先延ばしにしていればやがて取り返しのつかない事態に陥ってしまう。
親族介護が抱える辛さを的確に捉えた描写は、まるで我が身のことのように感じてしまいます。

認知症を連想させる、新しいゾンビモノの切り口は非常に面白いし、挑戦的です。
逃げられない介護という現実にどう向き合うのか。
そして人類は、本当にゾンビという存在を受け止めていけるのか。
今後の展開も非常に気になる作品です。

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