今回は「テーマ」をテーマに(書きまちがいじゃないですよ)選ばせていただいた4本をご紹介いたします!
テーマといえばすなわち「作品を通じて伝えたいこと」になるわけですけど、これが実に難しい。伏線張り巡らせて最後の最後で見せるのか、ストレートに最初から最後まで貫き通すのか……やりかたはいろいろですが、作中にあれこれしかけていかないと成立しませんから。そういう意味でも、こちらの4本は書き手の方にもかなり参考にできるものかと思います。
普通に読んで楽しみつつ、どんなふうにテーマを見せているものかでもうひとつお楽しみくださいませ!
戦争が終わり、代わりに反政府組織によるテロリズムの嵐吹き荒れる国。戦争の英雄で今は憲兵隊の最精鋭であるアレックス・バトラーはある夜、1年前に死んだ妻とどこか似た娼婦と出逢い、しだいに溺れていく。
こちらの作品のテーマは「別れの一瞬」ですが、そこまでの心情エピソードの積み上げかたが本当にすばらしいのです!
最後の最後で物語にはふたつの意味での“別れ”が訪れるんですが、過程で高まりゆく「悲劇のにおい」。それを嗅ぎ取っていながらも惹かれあうことしかできず、果たして別れゆく男と女。
後に残される真実――まさに極上のメロドラマ(あえてこう表現させていただきます)がここにはあるんですよ!
それをたった1万字ちょいで成立させてるんですから、著者さんお見事! としか言い様がありません。
巧みな筆によって醸し出される余韻とにおい。ムーディーな悲恋をこの上もなくさらりと味わえる一作です。
(目を持って行かれた“テーマ”4選/文=髙橋 剛)
幼等部から高等部までが同じ敷地内に存在する巨大学舎、私立桜花堂学園。
高等部1年にして風紀委員会仮所属の鳥羽華子は委員会正所属をかけ、旧校舎に巣くい、「暗号屋」なる怪しい商売を展開する高等部3年・宇徳安吾を追い出すべく元校長室乗り込んだが……。
まあ、失敗したうえになぜか、生徒が安吾の元へ持ち込む暗号の解読に巻き込まれていくわけですね。
それだけなら普通のお話なんですが、テーマでもある「暗号」の設定が非常に魅力的なのです。なんと、最初に「挑戦状」として読者に提示されてるんですよ!
ある意味で本編が答え合わせってことですね。
この暗号がまたよくできていて、ミステリ好き・パズル好きな方は燃えずにいられますまい。私も燃えました。
回答率0パーセントでしたけど……。
そして暗号のひとつひとつがドラマにきちんと絡められてるのも見所です。
解くだけじゃなくて、解いた先のエンディングも楽しめるお得な作品。ぜひご一読あれ!
(目を持って行かれた“テーマ”4選/文=髙橋 剛)
峯なる国で食堂を営んでいた朱宵鈴はその腕を買われ、先代の帝たる暁王の料理人に取り立てられた。
狂人であるがゆえに禅譲を迫られたという暁王は、現帝に毒を盛られた結果、子どもさながらの無垢と化していたのだ。
朱宵鈴は料理を出し続け、暁王との平穏な日々を過ごすのだが――
叛乱の勃発により、その旗印とされかねない暁王の毒殺を命じられる。
テーマがタイトルそのままという、非常によくできた構成に目を惹きつけられました。
そして、主人公と暁王の会合シーンはすべて食卓という潔さを始め、1万字弱の短編にここまでの「色濃さ」を演出してのけた筆力にもです。
主人公の心情が細やかで濃やかなんですよね。だからこそ、彼女の最後の選択に説得力がありますし、叙情がある。
主人公にきちんとピンスポを当ててひとつのテーマを書き切れる人は希少なので、その点にぜひ注目してお読みいただきたいところです。迷わずオススメさせていただきますよー。
(目を持って行かれた“テーマ”4選/文=髙橋 剛)
ドイツに長らく住まわれている著者さんによる「ドイツはこんなところだー!」なエッセイです。
テーマはもちろん「ドイツ(ってやつは)」なわけですが、それを我々日本人の目からじっくり見定めた内容になっていて、それがまたおもしろいんです。
たとえば日本なら、「京都の人はプライド高い」とか「福島(会津)の人は鹿児島(薩摩)に含みがあったり」なんて、土地土地のなんとない傾向があるじゃないですか。ただドイツはこんなところでーという紹介じゃなく、そういう国内の人間だからこその偏った目や、それを外国人だからこその疑問や興味で掘り下げてくれる感じです。
かくてさらけ出されるドイツ人の本音!
なんていうか、国はちがっても同じ人間だなぁと理解できて、ついつい親近感を抱いちゃうわけですよ。
読んだら普通にドイツ行きたくなること間違いなし!
各エピソードが独立してますので、興味あるテーマをピックアップして読めるのも魅力です。
(目を持って行かれた“テーマ”4選/文=髙橋 剛)