有名なSF作家であり翻訳家であり、そして『ひらけ! ポンキッキ』のガチャピンのモデルである野田昌宏はこのような言葉を残している「SFってなァ、結局のところ絵だねェ」。読んでいて読者の脳裏に見たこともないようなイメージが浮かぶ作品こそが、優れたSFであるということを示した言葉である。それに倣って自分もある一つの言葉を思いついた。「小説ってなァ、結局のところ文章だねェ」。…………「何当たり前のことを言ってるんだ、このハゲ」みたいなことを言うのは待って欲しい。やはり小説という媒体は基本的に文字だけで構成されている以上、魅力あふれる登場人物や予想もつかぬストーリー展開も重要だが、文章の良さがそのまま作品の面白さに直結するのである。ユーモラスなエッセイであれ、背筋を凍らせるようなホラーであれ、魅力的な設定を組み込んだSFであれ、その世界を表現する文章の良し悪し一つで読者の印象は大きく変わってしまうのだ。というわけで、今回は特に“文章”が良かった作品をご紹介。もちろん文章以外も素晴らしいのだけれど、その素晴らしさを十二分に引き出す文章の力を持った作品を集めました。

ピックアップ

ハードボイルド系フツメン高校生の奇妙な日常……

  • ★★★ Excellent!!!

本作の主人公は西野五郷。日中は普通の男子高校生として暮らしているが、その真の顔は、暗殺からボディガードまで様々な任務をこなす凄腕のエージェント。
業界筋からは一目置かれ、ときには六本木のバーで酒を飲み、マスターと小粋な会話を交わす西野。
いかにも主人公な彼だが、非常に残念なことに彼はイケメンではなかった。普通のルックスのフツメン。それが西野だ。
そんな西野がある日、自分も人並みの青春を送りたい。女子と交友を持ちたいと願ってしまう……!

注目すべきは、ハードボイルド風の文章の中で、ひたすら強調される西野のフツメンっぷり。
彼がどれだけかっこいい活躍を見せても、直後に地の文で容赦なく彼がフツメンであることを強調してしまう。
さらにクラスの女子をヤクザから助けても女子から惚れられることはなく、同級生相手にニヒルな台詞を吐いてもイラっとさせるだけ。
だって彼はフツメンだから……。

しかし肝心の西野本人は自分の立ち振る舞いに問題があるとは少しも気づかず、常にハードボイルドな言動で周囲とのズレを拡大させていく……! 
西野以外にも、少しヤンデレ気味な女の子とか、一見地味系な女子だが実は裏では色々奔放なクラスメートなど 、アクの強い人物多し! 
果たして西野は憧れの青春を掴むことができるのか!?

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=柿崎 憲)

そして男はダイエットに挑む。自分の肥満を正当化するために……!

  • ★★★ Excellent!!!

標準体型よりもちょっぴり太目である作者が、肥満についての論考やダイエットをする過程を描いたこのエッセイ。
まず書き出しが良い。毎回何かしらの食事をしているところから始まっているのである。

食べているものも、汁粉、ジャワカレー(ガラムマサラ付き)、ラーメン+ライスなど、説得力があるものばかり。
これを読んで読者は「ああ、この人は本当に太ってるんだな」と、頭ではなく心で理解できてしまう。
その後も「腹が減ってないのに飯を食う人間は、平和の体現者である」と断言して、それを証明するためにとんでもない理屈をひねり出したり、自身の体に潜む問題を愉快な体験談を交えて色々披露して、「俺が太っているのはしょうがない」ということを読者に正当化しようとする。

しかし、言葉だけでは説得力がないと見た作者はなんとダイエットに挑戦。
それもただ痩せるためのダイエットではない。
自分がダイエットをしても決して痩せることはない運命的な肥満であることを証明する逆説的ダイエットだ! 
体重だけではなく、体脂肪量や筋肉量、その日に摂った食事や、行った運動までしっかり読者に公開して、堂々勝負!

果たして作者は本当に痩せないでいられるのか…………とかそういうダイエットの成否はわりとどうでもよくて、
とにかく文章がユーモラスで凄く面白くてとにかく読ませるので、騙されたと思って最初の3本だけ読んで気に入った人はそのまま続きをどうぞ。
ダイエットに興味のある人にもない人にもおすすめです!

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=柿崎 憲)

AIが人間を凌駕する世界で、女は芸術の意味を神に問いかける。

  • ★★★ Excellent!!!

将棋で人間を下したり、お店でペッパーくんが客と会話していたり、自動車の自動運転が実用化の段階に入ったりと日々進歩を続けるAI。
しかし、進歩によってAIによって仕事が奪われてしまうという問題も。
そして、本作の舞台は今より少し先の、AIが芸術の分野でも人間を超えてしまった近未来。

あらゆる芸術作品を生み出す機械知性――
カリス・プロジェクトの誕生によって、多くの藝術家は仕事を失った。
一部の藝術家はカリスを超える作品を作ろうと、倫理の壁を無視して機械には再現不能な作品を作ろうともがき足搔く。
そして、そんな藝術家のひとりであるスナドリ・リヒカは、この世界に多大な影響を与える、ある作品を発表しようとするのだが……。

機械によって藝術家の存在が意味を失った世界という設定も刺激的ならば、藝術家たちが、クローン技術や人体拡張、違法薬物を利用して生み出す様々な芸術品も非常に刺激的。
だが何より強烈なのは、本作の最大の謎であり、作品全体のテーマにも直結する、スナドリが作った作品。
この作品を通じて彼女が導き出す答えは、世界の新たな真理か、それともただの妄想か。
それは是非読者に直接読んで判断してもらいたい。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=柿崎 憲)

言葉が、裏返って現実となる少女の見つけた、意外な力の利用法は……?

  • ★★★ Excellent!!!

選挙予想で当確と太鼓判を押した政治家が次々に落選する政治評論家、試合前の予想を次々と外すスポーツ解説者。
ことごとく予想を外す彼らに対して、世間の人々は敬意を表してこう呼ぶ。「逆神」と。

本作の主人公・佐久間恵もそんな逆神と呼ばれそうな能力の持ち主。
祖父に「お爺さんいつまでも長生きしてね」と言えば翌日急逝し、「一生友達でいよう」と約束した親友は転校、そのようなことが連続し、さらには唯一の友達も事故で失ってしまう。

自分が放った言葉が正反対の結果を生んでしまう。この現象を呪う恵だが、
ある日大学内の人気者である峯岸涼子から小説の書き方について相談をされる。
自分が持たないもの、全てを持つ涼子に嫉妬する恵だが、ここで恵は自分の力を逆手に取ったある一つのアイデアを閃いてしまう……。

口にした言葉が正反対の結果を生み続けた恵が、涼子を貶めるために思いついたアイデアとは? 
そしてその計画の行き着く先は?
巧みに張られたさりげない伏線に、後半で突如反転する物語、そしてラストに待ち受ける後味の悪さ。
短編ながらも上質のホラーに仕上がっています。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=柿崎 憲)

推理力や観察力を超える探偵史上最強の能力。それは地の文を読む力!

  • ★★★ Excellent!!!

世の中に名探偵は数多い。
登場して即座に事件を解決する者もいれば、事件が起こる前に未然に解決する探偵なんかもいて、色々バリエーション豊かなのだが、本作に登場するのはそれらの名探偵以上とも以下ともいえる特殊な探偵だ。
その名もメタフィクション探偵!

本作の主人公・霧島十歩は小説の登場人物であるにもかかわらず、作中の『地の文』に書いてあることを読むことができるのだ。
彼はその能力を駆使することで地の文とごく普通に会話のやり取りをし、時には口喧嘩をすることもあるし、あるいは地の文から突然の死の宣告を受けることさえあるのだ!  

もちろんそんな不毛な会話ばかりを繰り広げるばかりではない。
事件の真相に近づくため、無理やり回想シーンに突入して犯行当時の様子を直接「読む」こともあれば、事件に関わる証拠や目撃者のありかを地の文から聞き出すなど、掟破りの裏技を使って、十歩はたちまち真実にたどり着くのだ。

しかし、そんなイカサマが使えるにもかかわらず、直接事件の真相を教えてもらうという無粋な真似はせずに、あくまで事件のヒントや手がかりをもらったりするだけに留めているからなにかと奥ゆかしい。
おかげで読者もちゃんと推理を楽しむことができるのでご安心ください。

探偵なのにイマイチパッとしない十歩と、容赦ないツッコミを入れる地の文の会話(?)は非常に面白く、ちょっと変わったミステリーが読みたいという方にお勧めです!

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=柿崎 憲)

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