熊猫パンチドランカー

藍澤ユキ

オープニング★アクト

 五曲目も終盤に差し掛かり、ライブハウスはすっかり興奮の坩堝るつぼと化していた。観客の熱気で室内にはモヤが掛かり、バンドが放つ轟音に嬌声や絶叫が混じる。

 

 ステージ中央に仁王立ちで構える混沌の主。ゆるふわの銀髪セミロングにはフリルのカチューシャ。黒いベルベットのミニワンピースに純白のエプロンドレス。フリルのアンダースカートからは、白いオーバーニーソックスに包まれた形の良い脚がのぞいている。その先には、エナメルのワンストラップシューズの艶かしい黒い光沢。

 

 それは完璧なメイドのアイコンだった。

 

 スネアとツインペダルから繰り出されるタイトなリズムに、うねりながら絡みつくベース。そこへ中音域の持ち上がった甘く太いフライングVのハムバッカーサウンドが重なる。

 メイド衣装のシーナはバンドに演奏を続けるように指で合図をすると、ラインストーンやラメシールでデコられたクリームホワイトのレスポールカスタムを、ゆっくり肩から外してスタッフに手渡した。

 そのままシーナは自由になった両手をおもむろにアンダースカートの中に突っ込むと、腰をよじりながら何かをするすると引き下げる。そして、前かがみになりながら脚を片方づつ引き抜くと、右手の人差し指にそれを引っ掛けてくるくると回し始めた。

 数回くるくるとさせると、シーナは回す指を止めた。人差し指にはクシュッと丸まったシュシュのような白い布玉が引っかかっている。

 

 パンツだった。


「変態さんたちーっ! 好きなだけくんくんぺろぺろしちゃってねっー♡」

 シーナはそう言うとフロアに向かってパンツを思いっきり放り投げた。

 会場のテンションは異様な盛り上がりを見せる。床を踏み鳴らし、指笛と笑い声と怒声と歓声と嬌声が交じりあう。もはやフロアは阿鼻叫喚の様相を呈していた。

 あまりの出来事に呆然とした晶良あきらは、ギターを弾く手が思わず止まってしまう。ユージと辰生のリズム隊は、大爆笑しながらも、きっちりとグルーヴを生み出していた。

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