薄氷のように脆い世界で踊る
- ★★ Very Good!!
傍観者で良かったんだ。
ファインダーに映った誰かの物語を写真に収める、そんな生き方で良かったんだ。
世界の裏側なんてなんにも知らずに、華やかな舞台を見上げる人生で満足できたんだ。
ある少女の告白によって、少年は雛壇へと引き上げられちゃった。
感情も、意志も、都合も、みんな無視されて主人公にさせられたんだ。
人類のために。
そんなの、一人の少年に背負えるものじゃないと思うんだけど。でも、拒否権はないんだよね。
壇上で、少年は知りたくもない世界の脆さを見せつけられる。そして、踊ることを強要されちゃう。
右足を出して、左足を交えて、くるって回って――
一人のヒロインを笑顔にするために、主人公は幸せの踊りを踊る。
手を握って、優しく引き寄せて、ぎゅって抱きしめて――
主人公は少年だけど、少女は彼だけのヒロインじゃなくて、きっと人類のヒロインなんだ。
だって、みんなが彼女の笑顔を望んでいるんだもの。
心の底から。
ステップを踏み間違えることは許されないから、少年は一生懸命頑張ってる。
一つでも間違えれば、全てが壊れてしまうんだ。
まるで薄氷でできたかの様な、儚く空虚で大きな舞台。
足下の氷に映る自分の姿は、自分であって、自分じゃないジブン。そんなジブンが自分の姿でじぶんを演じてる。じぶんを好きな人のために、ジブンがじぶんになろうと一生懸命踊ってる姿を見ている自分。
舞台の上の戸惑うジブン。
それは自分?
それともジブン?
「どれでもいいよ じぶん であれば」
人類はそう言い放つんだ。
翻弄される脇役達。
役割を押しつけられて、感情を押し殺す主人公。
でも、ちょっと考えてみて?
本当に可哀想なのは、誰なのかな。
作られた世界と知らず、踊らされているのは、誰?
主人公として、舞台の上から世界のいびつさを見た彼は、肩から下げた古びたカメラで何を撮ろうとするんだろう。
何を撮りたいと思うのだろう。
嘘をつけないのが写真だけど、その写真に『ほんとう』は写っているのかな?
みんな、幸せになってほしい。
そんな気分になるお話。