薄氷のように脆い世界で踊る


 傍観者で良かったんだ。
 ファインダーに映った誰かの物語を写真に収める、そんな生き方で良かったんだ。
 世界の裏側なんてなんにも知らずに、華やかな舞台を見上げる人生で満足できたんだ。


 ある少女の告白によって、少年は雛壇へと引き上げられちゃった。
 感情も、意志も、都合も、みんな無視されて主人公にさせられたんだ。
 人類のために。
 そんなの、一人の少年に背負えるものじゃないと思うんだけど。でも、拒否権はないんだよね。
 壇上で、少年は知りたくもない世界の脆さを見せつけられる。そして、踊ることを強要されちゃう。
 右足を出して、左足を交えて、くるって回って――

 一人のヒロインを笑顔にするために、主人公は幸せの踊りを踊る。
 手を握って、優しく引き寄せて、ぎゅって抱きしめて――

 主人公は少年だけど、少女は彼だけのヒロインじゃなくて、きっと人類のヒロインなんだ。
 だって、みんなが彼女の笑顔を望んでいるんだもの。
 心の底から。


 ステップを踏み間違えることは許されないから、少年は一生懸命頑張ってる。
 一つでも間違えれば、全てが壊れてしまうんだ。
 まるで薄氷でできたかの様な、儚く空虚で大きな舞台。
 足下の氷に映る自分の姿は、自分であって、自分じゃないジブン。そんなジブンが自分の姿でじぶんを演じてる。じぶんを好きな人のために、ジブンがじぶんになろうと一生懸命踊ってる姿を見ている自分。

 舞台の上の戸惑うジブン。
 それは自分?
 それともジブン? 
「どれでもいいよ じぶん であれば」
 人類はそう言い放つんだ。


 翻弄される脇役達。
 役割を押しつけられて、感情を押し殺す主人公。
 でも、ちょっと考えてみて?
 本当に可哀想なのは、誰なのかな。
 作られた世界と知らず、踊らされているのは、誰?


 主人公として、舞台の上から世界のいびつさを見た彼は、肩から下げた古びたカメラで何を撮ろうとするんだろう。
 何を撮りたいと思うのだろう。
 嘘をつけないのが写真だけど、その写真に『ほんとう』は写っているのかな?
 

 みんな、幸せになってほしい。
 そんな気分になるお話。

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