彼女が笑顔なら、世界は平穏無事である。
事故、事件、災害、紛争、そうした災厄は起こらない。
だから、彼女の機嫌を損ねてはならない。
実際、全世界の法律が彼女を庇護する措置を採っている。
そんな宿命を背負った「運命の子供」篠宮理恵から、
「僕」はバレンタインに告白され、付き合うことになった。
世界の運命を左右する大役で、ゆえに「僕」のバックには、
国家機密絡みの組織が付いてサポートしてくれている。
引っ込み思案でカメラ好きの15歳の平凡な少年が
「運命の子供」の恋人役を演じる戸惑いや葛藤や心労、
その苦しい状況から次第に変化していく恋心の様子は、
みずみずしいボーイミーツガールで、とても楽しかった。
彼女の精神状態とリンクして世界が滅ぶかもしれない、
という壮大なSF的ギミックは自分では思い付かないから、
どんな仕掛けによって表現すべきか、とても勉強になった。
しかしながら、好みには合わない点も少なからずあった。
以下、辛口な私見となる。
一般ユーザ作品ではなく公式作品なのだから、ご容赦願いたい。
8万字というサイズは中途半端ではないのか、と感じた。
1万字ならば、「運命の子供」のインパクトが活きる。
個人的には倍の16万字でじっくりと描いてほしかった。
展開のテンポがあまりによくて、キャラが記号的に見える。
唐突にセカイを背負わされてしまった「僕」を始め、
理恵、ホークたちフェイト、理恵の家族、佐野会長、
そうしたキャラたち全員が世界の運命に関与している。
重苦しい心理に反し、物語がさらりとしすぎな気がする。
いや、重苦しささえ軽やかに描くのがライトノベルなのか?
例えば、時おり「僕」の視点を離れて敵サイドが描かれる点、
台詞のない亡き姉の像が重要なアイコンとして登場する点など、
漫画的ともいえる演出が全体的に見られ、私は少し戸惑った。
どんだけ失礼なレビューだ。
本当にごめんなさい。
最後まで読み通したのは、おもしろかったからだ。
自分とは違う作風に触れて、勉強にも刺激にもなった。
カクヨムというサイト上だから出会えた作品だった。
作者の他作品も、今度、書店で探して拝読したい。
※このレビューは、第一章だけ読ませていただいてのレビューになります。あしからず。
皆様、ごきげんよう。黒虎でございます。
こちらのレビューは少々長いため、お時間があるときにでも読んでいただければと思います。
このお話は本作の主人公である『山口勝紀』が、クラスメイトであり些細なことで世界を変えてしまう《運命の子供》である『篠宮理恵』がバレンタイチョコを渡すところから物語が始まります。
しかも、篠宮理恵は自身が《運命の子供》であることを知りません。そして知ることも許されない立場の少女です。
なぜならちょっとした感情の機微で世界が変わってしまう可能性があり、彼女の感情を揺るがす者には法的処置が執られるという恐ろしいことが待っているからです。
そんな途轍もなく空想的な存在である少女に、急にチョコレートを渡された勝紀はなんとかその場は逃れたものの、どうやって断ろうかと公園で悪友である『鈴木比呂』相談を持ちかけます。
普通ならどこか諦めがついて、《運命の子供》とのラブストーリーが始まりそうなものですが。彼にはどうしても、それができない理由がありました。
ここで山口勝紀の少し昔のお話です。
彼は高校に入る前に、面倒をよく見てもらっていた姉が亡くなって塞ぎこんでいた時期がありました。
母親や比呂に部屋の外から声を投げかけ、どうにかして外に出そうとしますが。心が深く傷が付いた彼にその言葉は届きせん。そんなとき、ある一人の先輩が無理やり扉をこじ開けて部屋に入ってきて、彼を部屋から連れ出します。
その先輩こそ――姉の親友であり、勝紀が今想いを馳せている『志摩由子』でした。
由子は青空の下に勝紀を連れ出して、励ましの言葉と彼の姉が使っていたというレトロなカメラを手渡して
「これで写真を撮って天国にいるお姉さんに届けてあげなさい」
彼女は無理やり扉を開けたときに怪我をした左手――現在も傷が残るほどの怪我――を気にするでもなく、勝紀の背中を押します。
彼はその言葉に励まされ、姉や由子に恩を返すために写真を撮るようになり、今現在のレトロなカメラがシャッターを切る音が好きな高校生になりました。
そして勝紀は由子に恩を返したいと思う気持ちと共に、人との距離感を大切にしたいと思うなか。由子に恋焦がれていたのです。
そして時間軸は現在である公園に。
相談しているうちに船が暗礁に乗っている現実に半ば絶望しているなか、まだ光りはないかと物思いに耽っていると。比呂からではない声が投げかけられて、彼らは驚きながらも視線を相手のほうに向けました。
すると、そこにはいかにも不審者らしき黒尽くめの男が立っていました。
最初は逃げ出そうと試みるも、他の場所から出てきた同じような男たちに道を塞がれて、仕方なく男に向き合い名刺を受け取るとそこには不穏な文字が羅列されていました。
――《日本政府運命省所属 監査機関実行部隊フェイト 隊長ホーク》
ホークという男は勝紀たちに希望をなくさせる一言を放ち、第一章は終わりを迎えます。
これが大間かな物語の冒頭である第一章のお話です。
主人公である山口勝紀君の心理描写などが細かく本編では描かれていますので、気になる方はどうぞご一読ください。
今も随時、天埜冬景先生が執筆しておられますが、これがどういった結末を迎えるのか楽しみですね。影ながら、ひっそりと応援しております。
長くなってしまいしたが、これにてレビューのほうを終わらせていただこうと思います。長文にも関わらず、読んでいただいたユーザーの皆様ありがとうございます。少しでも皆様のお役に立てれば嬉しい限りです。
それでは皆様、これからも良き『カクヨムライフ』を。
傍観者で良かったんだ。
ファインダーに映った誰かの物語を写真に収める、そんな生き方で良かったんだ。
世界の裏側なんてなんにも知らずに、華やかな舞台を見上げる人生で満足できたんだ。
ある少女の告白によって、少年は雛壇へと引き上げられちゃった。
感情も、意志も、都合も、みんな無視されて主人公にさせられたんだ。
人類のために。
そんなの、一人の少年に背負えるものじゃないと思うんだけど。でも、拒否権はないんだよね。
壇上で、少年は知りたくもない世界の脆さを見せつけられる。そして、踊ることを強要されちゃう。
右足を出して、左足を交えて、くるって回って――
一人のヒロインを笑顔にするために、主人公は幸せの踊りを踊る。
手を握って、優しく引き寄せて、ぎゅって抱きしめて――
主人公は少年だけど、少女は彼だけのヒロインじゃなくて、きっと人類のヒロインなんだ。
だって、みんなが彼女の笑顔を望んでいるんだもの。
心の底から。
ステップを踏み間違えることは許されないから、少年は一生懸命頑張ってる。
一つでも間違えれば、全てが壊れてしまうんだ。
まるで薄氷でできたかの様な、儚く空虚で大きな舞台。
足下の氷に映る自分の姿は、自分であって、自分じゃないジブン。そんなジブンが自分の姿でじぶんを演じてる。じぶんを好きな人のために、ジブンがじぶんになろうと一生懸命踊ってる姿を見ている自分。
舞台の上の戸惑うジブン。
それは自分?
それともジブン?
「どれでもいいよ じぶん であれば」
人類はそう言い放つんだ。
翻弄される脇役達。
役割を押しつけられて、感情を押し殺す主人公。
でも、ちょっと考えてみて?
本当に可哀想なのは、誰なのかな。
作られた世界と知らず、踊らされているのは、誰?
主人公として、舞台の上から世界のいびつさを見た彼は、肩から下げた古びたカメラで何を撮ろうとするんだろう。
何を撮りたいと思うのだろう。
嘘をつけないのが写真だけど、その写真に『ほんとう』は写っているのかな?
みんな、幸せになってほしい。
そんな気分になるお話。
――人と人との関係性の基本はギブアンドテイク。等価交換だ。
(本文・第一章より引用)
過去の出来事が原因で心に傷を負った少年・勝紀は、周囲の親しい人々から受ける無償の善意に戸惑いを覚えながらも、ごく普通の生活を送っていた。
大切な人に少しでも恩を返すため、首から下げたクラシックカメラ。
ファインダー越しに幾つもの『セカイ』を切り取る中、やがて1人の少女が勝紀の前に現れる。
篠宮理恵。世界の命運を握る『運命の子供』だった。
理恵に告白された勝紀は、自分の意思とは無関係に彼女との交際を強要される。
無数の監視と厳密なシュミレーションのもとで用意されたやりとりは、勝紀の気持ちとは無関係に理恵を喜ばせるもの。
けれど、周囲の思惑をなにひとつ知ることのない理恵は、どこまでも無垢な少女で。
そんな彼女だからこそ抱えていた純粋な悩みを知り、勝紀の中には、命令や演技ではない、本当の『想い』が生まれた。
友情。恋愛。
人と人との関係性の基本は等価交換。
大切な悩みが2人を繋いで、ほのかな恋が始まる。
でも、決して忘れてはいけない。
理恵は――『運命の子供』。
彼女を巡り、やがて世界は大きく動き出す。
2人の、本当の気持ちを置き去りにするかのように。