ただただ衝撃的だった。
これはある街で起きた陰惨な事件を、関係者へのインタビューから掘り起こしてゆく物語だ。
そこから現れていく、あまりにも残酷な関係性の連鎖に目が眩んだ。
たとえば「ひどい」出来事があったとする。人間関係の中でそれを壊してしまうような出来事、あるいは誰かをひどく傷つけてしまうような出来事。
そんな事が自分の近くで起きたとする、それをただ見ていただけだ、と主張したとする。
でも、本当にそうだろうか。
あらゆる因果は巡る、運命論などではなく、人間は関わり、触れる生き物だ。安全な場所でそれをただ傍観している事などありえないのではないか?
端的に言えば、おまえは誰かのせいにしていないか?おまえも当事者なのではないか?それから目を逸らし、逃げているだけなのではないか?
それが、インタビュー・インテグラのメッセージなのだと思う。
この作品を読んでいて、胸ぐらを掴まれた気がした。おまえはおまえの人生の因果から目を逸らしてはいないか?きっとそのはずだ、向き合え、と。
そう言われた気がした。
自分にとって心当たりのある事が多々あった分、その欺瞞を問いただされたような気分だった。
でも救いはある、目を逸らさなければ。自らの関係を認めれば、誰かに触れる事はできる。
物事を見据えたときに何があるのか、触れた先に何があるのかはわからない。でも、目を逸らし続けるよりは、きっとマシなはずだ。
この作品は、俺にその事を教えてくれた。作者であるポンチャックマスター後藤氏に深く感謝する。
先のレビューでも語られているとおり、インタビュー形式のみで物語が紡がれる異色な作品。
ある事件の真相に迫ろうとした犯人の友人が、関係者に一人ずつ話を聞きに行くというものです。
地の文がなく、さらに漫画ではないので、読者は登場人物(インタビュアーとインタビュイー)の発言だけを頼りにストーリーを辿っていく。
真実なのか嘘なのか分からない不安定な足場を目隠しして(登場人物の音声と捉えれば)聴覚のみで渡り歩いている心もとなさが読み手に恐怖を与えます。
またインタビュイーは稀代の少年犯罪者の関係者で、もともとか事件によって歪められたかはさておき、情緒不安定な曲者ばかり。(比較的まともなのは一人目くらい?)
地の文がない分、突然怒り狂ったり叫んだり、取り憑かれたように怯えたり、かと思いきや主人公(インタビュアー)の本心を衝いてきたり……。
そして揺れ動く感情は、あるとき途轍もない加速度をもって主人公を歪めていきます。
会話文だけで構成されている特性上、難解な表現はほぼ出てきませんが、それなのに、この物語独特のおどろおどろしい雰囲気、立体感、不安定な心情の変化を描写するのは、非常にすごいと思います。
読後感も何とも言えない。これは読んでみるしかないです。
物語の扱っている題材が題材だけに、残酷描写には多少の覚悟を要しますが、耐性がある方は是非味わってみて下さい。
怖いのに先が気になって、抜け出せなくなって行きます・・・。
なによりもまず感じたのは「言葉のリアル」。
ある事件の現場にいた人たちへのインタビューを書き起こした体で物語が構成されてるんですけど、このインタビュイー(インタビューされる人)の言葉がふらふら迷ったり私情で歪められたりしながら、それでも少しずつ、ひとつの事件を浮き彫りにしていく……
いわゆる“一方的な意見”が語られていくリアルと、それらが縒りあわされることで垣間見える真実。
このふたつが「迫り来る怖さ」を演出するわけです。
うん、これだけでも充分に怖いミステリなんですが、インタビューを続ける中で、さらに浮き上がってくるんです。
この物語の視点主であるインタビュアーの姿が。
詳しくは本編を読んでいただきたいところですが、インタビューって図式が壊れる瞬間——背中ぞくぞくっとしますよ!
言葉しかない物語が醸し出すリアルな怖さ。できれば明るいところで読みましょう。
(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=髙橋 剛)
いつもレビューを書く時は他人に薦めたくて書くのですが、僕は本作を誰彼かまわず薦める気にはなれません。だけどこの衝撃と読後感を自分一人の中に留めておく気にもなれません。なので最初に忠告します。覚悟のある方だけ読んでください。
本作について概要を説明します。
本作に地の文は出て来ません。インタビューを行う「インタビュアー」とインタビューを受ける「インタビュイー」のやり取りで構成されています。多くの章の最後にインタビュアーのメモが残されており、敢えて言うならばそれが地の文と言えるでしょう。かなり変則的なスタイルを取った作品と言えます。インタビュアーがインタビューする内容は十年以上の前にとある殺人事件を起こした中学生について。インタビューする相手は主に加害者の関係者です。
このような説明を聞くと「様々な人間の証言によって殺人事件を起こした中学生の素顔が浮き彫りになっていく」という展開を予想される方が多いでしょう。少なくとも僕はそう予想しました。しかし予想は裏切られます。インタビューによって浮き彫りになるものは「何」で「誰」なのか。それがはっきりとし始めた頃、物語は加速します。取り返しのつかないスピードで。
肉声のみを綴る文章はそれぞれの語り手を生々しく描写し、時にはその存在感から逃げたくなるほどに心を抉ってきます。「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている」。覗かれる覚悟のある方は、是非。
インタビューする人物ごとにそれぞれの主観が強烈に描かれた今作。しかしこれらはバラバラの意見を集めているようで、実はインタビュアー自身に対しては実に的確に、紡ぐように、また抉るようにして描こうとし、インタビュアー自身もこれに突き動かされるように思考をよぎなくされ、終盤ではそれが一気に加速する。
またここでは強烈なキャラクターばかりが登場するが、逆にそれほどの強さがない限りこの瘡蓋を剥がすには至れなかったのはないか、とも思う。
その難易度がわかりやすく表れているのは4話のメモであり、この作品の中で最も怖かった部分でもあるように感じた。