無事完結されたので僭越ながらレビューを一筆!
膨大なweb小説のなかからどうやってこの物語に辿りついたのか、今となってはもう忘れてしまいましたが、読み始めてすぐに「怒れるヒロイン」セイレンの姿に惹きつけられたのを鮮烈に覚えています。
彼女はいつも何かに怒っていて、苛立っていますが、自らの足で立ち、立ち向かいます。独特のリズムで描かれる古代の風景は美しくどこか不思議で、そのなかで物語の核となる「雲神様の箱」を握って、彼女はひとり懸命に戦います。
対して、この物語のもう一人の主人公とも言える雄日子は不気味なヒーローです。邪術と古い血脈のなかを革新性と独創性をもって台頭してくる若き王、という立ち位置なのですが、笑顔の裏で何を考えているか分からない、不安定な内面を隠し持つ、何面体もの魅力をもつ男です。
この二人が相対したとき、物語は動き始めます。
面白いです。是非。
読んだら懐かしい気持ちになりました。
というのは、私が思春期のころ読み漁ったYAのファンタジーの香りがしたからです。
主人公の女の子は、なかなかハードな環境ながら素直で根性があって、好感が持てます。
彼女はこの世界のなかで、どこにも属さない異邦人でしょう。
故郷にあっては災いの子、故郷を出ても謎多き民族の娘という立場です。
どこにも属さない主人公の視点だから、読者も彼女の視線に寄り添って、見知らぬ古代の世界に思いを馳せることができます。
他のキャラクターもそれぞれしっかり個性があり血が通っていると感じます。
部下に慕われる若王、雄日子は英雄ですがどこか不気味さも感じます。私のお気に入りは、面倒見のいい藍十です。
文章も読みやすく、世界観がしっかりしています。
女主人公で、良質なファンタジーは少ないので、嬉しいです。
一言でいって、王道のハイファンタジーです……でも、とても読みやすい!
双子を禁忌とする古えの一族で、双子の妹として生まれたばかりに、一族の穢れ、「災厄の子」として不条理な扱いを受けてきた少女セイレン。
まるで少年のような言動と素直な心を持つヒロインを、つい応援したくなります。迷いながらも自分の居場所を作って行く姿に共感を覚えます。
生まれ故郷では命の価値さえないような扱いを受けていた彼女が、見知らぬ土地で多くの人間と触れあい、成長していく過程が丁寧に描かれています。
そんな彼女を側で見守る男達もとっても魅力的…これ以上はネタバレになってしまいそうなので、あとは読んでからのお楽しみ、という事で。
作者さまは「日本古代マニア」とおっしゃるだけあって、日本古代史最大の謎、とされる継体天皇の若かりし頃の物語を、史実と想像を交えながら、とても読みやすい文体で描かれています。
歴史・時代もののジャンルになってはいますが、戦乱の世はもちろん、呪術あり、切ない恋の物語もある、古代の日本が舞台の珠玉のファンタジーです。
その時代、その場所、その人物―歴史上に存在したものは、資料を読み重ね、読みほどいて、輪郭が見えてきます。
その見えてきた輪郭が、物語を求めて、ぽっと光り出すのを、この作者は捉えることができるのでしょう!
光る輪郭に肉を付け、色を塗り、生命を吹き込み、粗野で大胆にして乙女心が垣間見える、とっても魅力的なヒロインと、彼女をとりまくさまざまな立場の人物たちを、作者は導かれるままに生み出していったのだと思います。
読み進めながら、ヒロインが捉える匂いを、音を、吹き抜ける風を、同じように感じました。
極上のファンタジーです!
一章を読み終えたのでレビューを記させていただきました。
続きを読むのが楽しみです!
――ここは本当にカクヨムなのか?
なんだ、この圧倒的な面白さは!
冒頭の緊迫する場面から、いきなりジェットコースター感覚。物語世界に突き落とされる醍醐味を久し振りに味わいました。
謎の武具「雲神様の箱」を持つ主人公セイレン。
理不尽な運命に立ち向かう少女の素直な心と凛々しさに胸がときめきます。
もしあなたに、歴史や古代に知識や感心がなくとも、この波瀾万丈の物語「雲神様の箱」は楽しめると思いますが
読み進むうちに古代の魅力の虜となるかも知れません。
軽やかな筆遣いで、風景や人々の暮らしがさりげなくも鮮やかに描き出されます。
古代という史料の乏しい時代を書く為に、どれだけの史料を読み込まれたのかと思うと
作者の古代への愛情を思わずにはいられません。
この名作を、一日も早く書籍にして欲しいです。
読了。
面白かった!
古代史というのはそれだけで謎だらけ、その謎にファンタジーを絡めて、なんとも読み応えのある物語になっています。
主人公セイレンは、まつろわぬ民、土雲一族の娘。
そのセイレンが知らない、一族の謎。
土蜘蛛一族とのかかわりが明らかになっていく過程は食いついて読みました。
才覚にあふれ、一筋縄ではいかないリーダー、雄日子。
人の上に立つ王として笑みを浮かべ、冷徹に選択する雄日子には不思議な魅力があります。
物語はこの二人を中心にしながら、大和朝廷との対立が描かれていきます。
それぞれの立場や信念、思惑などが物語を立体的にしています。
いつも更新が待ち遠しかった。
古代史好き、ハイファンタジー好きなら楽しめるはず。
お薦めです。
時は古墳時代。
大和朝廷に反旗を翻す高島・高向の若王、雄日子。
聖なる山の民「土雲一族」において「災いの子」と皆に疎まれつつも逞しく生きてきた少女、セイレン。
二人が出会い、強引に主従関係を結ぶ所から物語は動き出します。
彼や脇を固める魅力的な守り人の面々と関わっていく中でヒロインは成長し、やがて雄日子との関係にも変化が・・・。
特筆すべきは作者が綴る五感をフルに活かした臨場感ある文章。
苔むす山々を走り抜け、風を切り軍馬で疾走し、雨に煙る洞窟で夜を明かす。
登場人物と共に、自分もリアルに並走している感覚を覚えます。
大和からの刺客、セイレンのライバルともいうべき媛、それらの登場で
常にハラハラする山場がいくつもあり、大長編ながら全く飽きることがありません。
そして雄日子とセイレン、二人の過去と苦悩が見事にリンクし物語の終盤を支えています。
番外編では、手負いの猫の様だったヒロインがだんだん懐いていく過程も見逃せないポイント!様々な視点からの描写で、この時代の生活様式も垣間見えることができます。
歴史マニアの作者が史実に基づいた観点から鮮やかに綴る、古の時代を駆け抜けた少女の成長記。
上質なハイファンタジーの世界観をぜひ堪能してみては如何でしょうか。
緻密な歴史考察をした上で、描かれていない、隙間をとてもうまく利用した、創作。
絶対に現実ではあり得ないと思える事柄が、現実にその時代にありそうな世界観のなかにちりばめられ、ありえると、あり得ないがとてもいいバランスで描かれている。
一人一人が、立場の違うなかで、おのおのの考え方で、ぶつかり合いながら、時には共感し合い、時にはすれ違いながら生きている、リアリティを感じさせる、表現はすばらしい。
世界観の描写も、この時代にある風景を想像させる、開拓された場所と、いまだ人の手が届かぬ、未知の地が織り込まれ、空想を膨らませられる表現力。
歴史小説でも、創作と現実が混じり合う事を考えれば、ファンタジーでありながら、歴史小説の一面も持った作品だといってもいいと思います。
古代史が好きなのに、あまり詳しくない自分は、この作品で知った歴史背景がたくさんありました。歴史好き、ファンタジー好きは必見だと思います!
土雲族の中で“災いの子”と呼ばれる娘セイレンは、双子の姉が犯した罪をかぶせられて殺されかけるが、とある国の王たる雄日子の“守り人”となることで生き長らえる。
しかし雄日子は大和朝廷より反逆人と断定されており、その命を狙われていた。
大和朝とまつろわぬ民が混在した日本の古代をモチーフにしているのも目新しくて興味深いのですが、やはり歴史ものには不可欠なもの――しっかり組まれた重厚なストーリーと、それを支える緻密な世界設定を読ませてくれるところが最高ですね。
歴史には改変してはいけない軸がありますから、それに障らず、しかもおもしろいお話を作るというのは非常に難しいものです。
だからこそ、それができている歴史ものには必然性が宿り、語り部たるキャラクターも輝くんです。
物語あり、設定あり、キャラクターあり。三位一体の読み応えを、あなたもその目で味わってくださいませ!
(秋こそガッツリ!長編4選!/文=髙橋 剛)