みんなが支持するランキング1位ってどんな奴──?って開いてみたら、

なんだこの文章の上手さは。
開始3行で、この作者の筆力がわかる。
視覚情報の「黒」と「白」が効果的に使われている上(しかも真逆で振り幅最大)、それがこの世界観の核に直結する、というのだから。
物語を「横浜」ではなく「富士山」から始める手腕も秀逸。
「富士山」を象徴として使い「全土が浸食された」現状を伝える──ここまでわずか3行だ。

情緒よりも情報優先、むだな言葉が削がれているので、さくさく読める。そもそも、

「そういえば、いつ行っても工事中だよなー横浜駅」

「増殖──!」
の二文字をかけた発想がすばらしい。
あの横浜の改札を出たあとの薄暗くて陰気な地下道から、一気に光景が飛躍する感じ。

実は、増殖してる……!?

このアイデアだけで一位を獲得する力があると思う。
ただ、気がかりな点もいくつか。

あらすじを読まない読者には、本文冒頭の記述が、その出来の良さゆえ説明不足に陥る危険があること。

物語に心理描写や情景描写、人間ドラマを求める向きには、登場人物の行く先に関心が持つことができず、又、説明の多い硬質な文体は、骨が折れるかも知れないこと。

そして、地域差の問題。読者について全国規模で考えた場合、横浜近郊の住民以外に「横浜駅が万年工事中だった」ことを体感していた読者が、果たしてどれだけいるかということ。この「作品の前提」を知らないと、優れた発想もインパクトを失う。

つまり、読者を選ぶ──出来の良さがわかる読者が限定される作品であるということ。

ともあれ、発想も素晴らしいし、文章も簡潔。SF好きな向きには良作だろうと思われる。

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