たった1つの"砂粒"は、間違いなく無限の砂山に影響を与えている

 この物語は決してコメディ調のお笑い話ではない。いたって真面目な遠未来SFである……ということを最初に述べておく。題材で少し笑いが漏れる人は(私を含めて)いるだろうが、それはあくまで私のような人間の心を冒頭で掴むための、そして筆者の想像を大きく盛り上げるためのスパイスでしかない。
 読み終わってみれば、外からやって来たよそ者が、本人にも意味のわからないたった一言のキーワードの答えを求め、永遠に思える人工知能支配の中で、現地の人たちの協力を得たり敵対しながら進んでいくと、なんの因果か誰もたどり着けなかったところにたどり着き、そこには……というありがちなSF作品である。しかし題材から広がる世界観、随所にちりばめられている現代ICカード名などのパロディ、それらはこの王道普遍たるストーリーをオリジナリティ溢れるものへと昇華させるのに十分な役割を担っている。
 横浜駅は今日も工事を続けている。その工事計画も、実行も、現状は一つ一つ人間が行っているに過ぎない。しかし今後ビッグデータの活用などで、(一般的に)より良い工事計画を立てるため自動判断や自動計画をするプログラムが作られることもあるだろうことは想像に難くない。いつも身近で利用している駅が、やがて作中のような横浜駅へと変貌していかないとは誰にも言えない……そんな異質なリアリティをもてば、このホラーチックな遠未来SFをより楽しめると思う。そして読後にまた、自らでも少し想像……いや、妄想してみてほしいと思う。あの世界と、この世界、そしておまけに、横浜駅の未来を。

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横浜駅SF