じんわり、涙があふれます。
「おばあちゃん」、はなれて暮らす娘さん方にはふだん中々会えないのでしょう……みんなの帰省を心待ちに、何日も何日も前からもてなす支度をしている「おばあちゃん」の姿に、自分の祖母を重ねて思い出し幾度となく涙を拭いました。私自身も幼い頃、よく人の集まる家であった祖母宅へ預けられていましたので、るんるん気分で張りきって準備する「おばあちゃん」を見上げて眺める語り手の猫ちゃんの気持ち、わかるなあ……と感情移入しながら読ませて頂きました。
読後。ふと、想い出します……――『いつでも、遊びに来てね。』成長とともにあまり顔を出さなくなってしまった私、祖母とやりとりした手紙・またはメールの末文に必ず添えられていた言葉でした。
私の記憶する夏は、ただ暑くうっとうしいばかりで、この物語に語られるようなうつくしい季節であったためしがありません。
なのになぜでしょうか、さわやかな水の匂いや、楽しげに客を迎える準備をする誰かの姿を、ここに描かれた光景を、ひどくなつかしく感じます。
この物語に描かれた夏の情景は、やさしく、キラキラと輝いていて、同時にどこか切ない。それがなぜなのかは、読み進めるうちにわかってくるのですが。
また、来年も。できれば再来年も。おばあちゃんと猫が、同じようにキラキラとした夏を迎えられれば良いと、読み終わるころには胸しめつけられる心地がします。
なにげなく、幸せで、切ない夏の情景を、ぜひ噛みしめてみていただきたい、短くも心惹かれる物語です。
作中のおばあちゃんの庭のつくりかたが、私の祖母とあの緑の庭に似ていて。おじいちゃんの金魚も、(私のとこは鳥でしたが)似ていて、とても懐かしく思い出されました。
読みながら作品の風景が自分の記憶にこんなにもぴったり結びつく経験ってあまりなかったので、その面でもとても貴重な体験をさせてもらった作品です。
それにしても、おばあちゃんとムームーとフラはかわいすぎるとおもいます!ずるい!おばあちゃんいとおしいな!
おばあちゃんも猫さんも、どちらもが互いを思いやっている姿にじんわりあったかい気持ちになります。
そう遠くない未来をきちんと予見しつつ、でもしっかり「今」に足をつけて、しっかり今を過ごしている二人(一人と一匹?)が素敵でした。
この夏のどこかにきっと二人も暮らしていそうだなと思います。