非常に秀逸なライトミステリー。
予備知識も、ミステリーのお約束を何一つ知らなくても、冒頭の数行から物語に入り込める等身大の物語。ミステリー初心者でも安心して飛び込んでほしい一作。
登場人物は色鮮やかに書き分けられており、主人公であり探偵役、そして語り部を担う少女・河原鮎。サッカー部のマネージャーであり、愛想のないワトソン役の敷島哲。他にもクラスメイトや警察官など、その全てが個性豊かに、そしてリアリティをもって描かれている。
主人公の鮎が同級生の転落事件を目撃したことを端に始まる数々のでき事は、全てが僕たちの身に起こったとしてもおかしくはない出来事ばかり。
連続転落死事件、送られてくるメールの謎、SNSの掲示板、ジャンピング・ジャック――数々の謎が少しずつ全体像を描き始める物語の後半、全ての読者が息を呑み、そして読む手を進められなくなるのは間違いないだろう。
個人的に素晴らしいと思ったのは、探偵役の主人公にもしっかりとドラマをつくり、家族――とりわけ兄との確執をえぐいぐらいに描いたところだ。かつて栄光の中にいた兄が、家に引き籠って鮎に当り散らすさまは、見ていて胸が苦しくなった。
そしてワトソン役を必要とした物語のラストも秀逸だった。二人であるということの意味を――『ホームズ』と『ワトソン』の関係を限りなく甘酸っぱく描いてくれた本作は、ミステリーを読んだことがないという方にお勧めできる最高の一作だろう。
キャッチコピーの「あいつを殺してジャンピング・ジャック」の意味を知った時――
必ずあなたは戦慄する!
長身で男勝りな女子高生・鮎ちゃんが殺人事件に巻き込まれるという、もはや言わずと知れたカクヨムミステリーの金字塔。
僕もだいぶ前に読んだんですけど、星入れてなかったんで今入れました(聞いてない)。
さてこの本作、単に事件を追うだけでなく、青春小説(ジュブナイル)としての側面も大きく担っています。
引きこもった兄との家庭内問題、事件を追ううちに仲良くなる男子との疑似的な恋愛、上級生の言いがかり、多感な年頃だからこそのモラトリアム。
ともすれば、事件の謎を追いたい人にはノイズでしかない、無駄な描写に映るかも知れません。
調査の最中に
「なんであんたはそうやって、思い出したように優しくしようとするんだ!」
なんて痴話喧嘩ぶちましちゃうくだりなんて、なーにグダグダやってんだとイライラする人も居たのではないでしょうか。
だがちょっと待って欲しい。
語り手(ワトソン)は主観で話を進行します。常に冷静ではなく、そのせいで情報を誤解したり、見落としたり、逆に運良く証拠を発見したりするわけです。
ましてや女子高生のメンタリティなんてコロコロ変わります。女心と秋の空です。
こらえきれない感情を爆発させるがゆえに、ミステリーにありがちな「話の都合で証拠が出揃う」事態を避けているようにも思えます。
あえて回り道をさせて、その先でひっそり伏線と遭遇させる。読者もヒロインの感情に振り回されているせいで、伏線に気付かないんです。
あとになって「ああ、あれか!」と思い知るのです。
青春小説の殻をかぶり、それすらもミスリードに「悪用」する、したたかな構成。
これこそが、本作の最大のトリックと言えるのではないでしょうか。
まず最初に、この作品に出会えたことを喜びました。
そして次に、もっと早くこの作品に出会えなかったことを嘆きました。
『青春』と『ミステリー』という二つのワードは案外親和性が高いですが、この作品はその要素をさらに高い次元で昇華し、まとめあげられていました。
しかし本当に凄い部分は、安易な『青春』という言葉を、何処までも痛々しく、瑞々しく、青々しく、そして輝かしく描写されていることです。
主人公の時に暗い感情も、登場人物の激情も、謎の真相が語る悲哀も、しっかりと描かれながらそれが最後に影を落とすことなく仕上がっていて、読後の余韻にどっぷりと浸ることができます。
どうか最後まで読んで、『ジャンピング・ジャック』のゲームに奔走してください。
青春とミステリーをはじめて組み合わせた作家は、偉大だと思う。
一見すると、明るくて爽やかな青春というものはミステリーとは縁遠いところにあるような気がするからだ。
しかし、光あるところに影が生まれるように、青春もまた明るくて爽やかな一面だけを持っているわけではない。
無知で無力で青い春を駆け抜ける少年少女は、大人になるにつれて鈍感になっていく“痛み”も敏感に受け止め、まだまだ未発達な定規の中で必死にもがいたり苦しんだりを繰り返す。
大人が聞けば、「そんな些細な話で」と感じてしまうような出来事でも、彼ら彼女らにとってはたった一つの紛れもない現実なのだ。
この物語の中では、そんな些細で重大な、当然のように残酷な現実と戦って生き残るための手段として、ジャンピング・ジャックの存在が仄めかされている。
ときに“操り人形”と訳されることもあるその名前だが、彼(あるいは彼女)に縋った人々は自分の意思でそうすることを選んだのだと思うと、皮肉めいたものを感じずにはいられない。
だって自身を操るのは、いつだって自分ではないか。
無知で無力な少年少女たちは、ときに無知で無力な自分自身に打ちのめされながらも、自分の意思で立ち、自分の足で歩き、そして生き残らざるをえない。
その苦さと、力強さを緻密な文章で描ききったこの作品に、私は最大限の敬意を払いたいと思う。
まず、ゲームの参加者同士による血みどろ 殺し合いを期待しているなら読むべきではない。これはそういう類の物語ではない。ジャンピング・ジャックという不可思議な存在を追いかける少年少女たちのミステリーであり青春小説である。
読み進めるうちに結末が予想できてしまうのがやや勿体ないが、それを抜きにしても、多感な高校生という存在をみずみずしく描き、ジャンピング・ジャックのゲームの真相を解き明かしていく筆力は素晴らしい。
視覚や心情だけの薄っぺらい描写ではなく、五感をフルに刺激し、臨場感を与えることに成功している。書籍化されていても文句なしの作品である。
転落死の謎を解き明かしたい。
最初は純粋な思いであった主人公の行動は、さまざまな感情が入り乱れて、謎の本質に近づくにつれて別の望みへと変わって行きます。
そこにある、青春まっただ中の女子高生の、とてもひたむきで切ない思いに、心動かされる読者も多いはず。
ジャンピング・ジャックとは誰なのか? 事件の真相は?
一読者として、ああでもない、こうでもないと推測、推理しながら一気に読み進めました。
読みが当たっていた個所もあれば外れていて大いに驚かされたところもありました。
まさに作中の人物達と同じように「先入観」は人の目を曇らせるのだと実感いたします。
とても読みごたえのある作品でした。
「高校二年の夏。あたし、川原かわはら鮎あゆは好物だった喫茶・カントリーローグ謹製ゆるふわエッグバンズを二度と食べることができなくなってしまった」
作者は、この冒頭から飛び降り自殺の凄惨な描写に続く流れだけで、もう十分読者を引き込むか飽きられるかの勝負に勝ってます。こうなるともう、続きを読みざるをえないのです。なんかもう、良かった点がいっぱいあります。
・まずキャッチコピーが秀逸。読む前も秀逸と思ったけど、読んだらまた2倍秀逸。
・怪人ジャンピング・ジャックが提示する意味不明の飛び降りゲーム、共通点の見えない被害者に、屋上の密室……「本当に、こんな不可解な現象に、合理的な説明がつけられるのだろうか?」と終始不安になるほどの謎。読めばこの謎の魅力に引き込まれることでしょう。
・その謎にちゃんと合理的な解明を見せるだけならまだしも、そこにキャラクターの性格や事情を絡め、種明かしにドラマをもたせてる点も評価に値すると思います。そして真相解明編でのどんでん返しまでついているという。
・あと高校生らしい語り口もですが、彼らの切ない事情をドロついた深みにはまらない程度に書いているのも良いですね。あの携帯画面とか。
本作品は殺人事件を通じて成長する少女の話である。ミステリーとしての大枠はよく見るタイプの作品であり、また少女が成長するというのもありきたりな話ではあるが、両方のバランスがとてもよく、少女と事件が組紐のように絡まり合う設計の巧みさが読者を引き込んでいく。
さらにこの作品のもう1つ優れた部分として、舞台が緻密に描写されているところをあげたい。SFやファンタジー的なわざとらしさを大胆にそぎ落とし、舞台の中に自然にキャラクターを配置し、話に落ち着きを与えているところが個人的に好みだった。若い人に向けた作品ではあるが、大人の雰囲気も感じさせており、厚みのある作品に仕上がっていると思う。
文体にはやや癖があり、そこだけは気にかかった。もうすこしこなれた筆致になれば、多くの読者を引き込めるかと思う。