あなたは必ず思い知る。掌で踊らされていた屈辱を。

長身で男勝りな女子高生・鮎ちゃんが殺人事件に巻き込まれるという、もはや言わずと知れたカクヨムミステリーの金字塔。

僕もだいぶ前に読んだんですけど、星入れてなかったんで今入れました(聞いてない)。

さてこの本作、単に事件を追うだけでなく、青春小説(ジュブナイル)としての側面も大きく担っています。
引きこもった兄との家庭内問題、事件を追ううちに仲良くなる男子との疑似的な恋愛、上級生の言いがかり、多感な年頃だからこそのモラトリアム。

ともすれば、事件の謎を追いたい人にはノイズでしかない、無駄な描写に映るかも知れません。
調査の最中に
「なんであんたはそうやって、思い出したように優しくしようとするんだ!」
なんて痴話喧嘩ぶちましちゃうくだりなんて、なーにグダグダやってんだとイライラする人も居たのではないでしょうか。

だがちょっと待って欲しい。
語り手(ワトソン)は主観で話を進行します。常に冷静ではなく、そのせいで情報を誤解したり、見落としたり、逆に運良く証拠を発見したりするわけです。
ましてや女子高生のメンタリティなんてコロコロ変わります。女心と秋の空です。
こらえきれない感情を爆発させるがゆえに、ミステリーにありがちな「話の都合で証拠が出揃う」事態を避けているようにも思えます。

あえて回り道をさせて、その先でひっそり伏線と遭遇させる。読者もヒロインの感情に振り回されているせいで、伏線に気付かないんです。
あとになって「ああ、あれか!」と思い知るのです。

青春小説の殻をかぶり、それすらもミスリードに「悪用」する、したたかな構成。
これこそが、本作の最大のトリックと言えるのではないでしょうか。

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