ネタバレ有りですので未読の方はスルーしてください。どうにも僕には、ネタバレなしの感想は書けないようで……
他の方のレビューでも、あのトリックを指しているとわかる表現が多いので、そこに触れます。まあそれが無くても読めばすぐにわかりますよね。こういった構造の物語なら真っ先に考えることなので。けれど、それは技術の巧拙の問題ではないと思いますし、伏線の張り方はとても上手だと思いますので悪しからず。
人物誤認系トリックとして、口調を使うのは割とある発想だと思いますが、普通は結構な無理筋です。だから、今作の、日本語を学ぶ過程で妙な語彙ばかりが増えてしまった、というのは目から鱗でした。愉快なため記憶に残りやすい和やかなギャグパートが伏線として軽やかに機能しています。読者に違和感を与えずにストーリーとして魅力的なシーンにさりげなく仕込む、理想的な伏線の張り方だと思います。
うさぎ強盗とそれを追う闇社会の人間たちが織りなす群像劇形式のミステリである。大作にして傑作。恐るべき読書量と練り上げられた構成に脱帽するほかない。魅力に溢れたキャラクター、怪しげな組織、スピード感のある表現、意外な展開、鮮やかなトリック、クールな表現、情熱的な恋愛、和めるギャグなど、この手のフィクションに求められるものは全て嘆息する水準に達している。夢中になって読むあまり、気がついたら朝になったというのは学生以来の体験であった。
ただ、この手の創作ではよくあることだが、要所要所に出てくる薀蓄にリアルさが乏しいと感じた。例えば上半身を完全に動かさずに強い蹴り上げを打つことは人間の構造上不可能である。屋内での威嚇射撃は跳弾が複雑になるため足を直接撃つべきである。現在流通しているスペツナズナイフは東欧製の模造品が大半で精度の調整が難しく、プロが実用で使うイメージがもちにくい。ファイアウォールはヘッダを見てパケットを破棄/許可するだけの装置であり、それ自体の突破には暗号化技術と重なり合う部分はない。マルウェアを作成したコードの作法がわかるのでは偽装のレベルが低すぎる。権限昇格と降格に関する技術知識、コードと実行形式ファイルに関する技術知識などが間違っている。車やヘリなどの制御系がインターネットに接続している製品は現在のところ市場にはなく、その説明が作中にない(ノートに記載があるが、これは特注であると作中で示してほしかった)。そのほか、フィクションの世界であればお約束の範囲ではあるものの、プロや知識のある人が見ると粗さが目立つであろう点が少なくなかった。重箱の隅をつつくようで恐縮だが、幅広い読者を想定するのであれば、もう少し見破られないためのごまかしはいるかと思われる。もしくはSFのようにオリジナル設定を作り、その中でルールを定義する方法もある。薀蓄で疑問が浮かんでしまい、本筋を読むスピードが鈍ることが多々あった。
全体を通しての感触として、作者はフィクションの読書量は十分だが、体験や取材にはあまり時間をかけていないように思えた。作者にお勧めしたいのは専門知識を一つ身につけ、作品に反映することである。犯罪学でも心理学でも手品でも医療でも格闘技でも金融でもなんでもいい。プロの世界はwikipediaからは知りえない様々な魅力ある知識と技術に溢れている。失礼を承知で言うが、本作はまだフィクションから作られたフィクションである。ここにノンフィクションを加味することで、さらなる飛躍を期待したい。例えが古くて申し訳ないが、パトリシア・コーンウェルのスカーペッタ・シリーズを超える作品でも、作者の力量であれば執筆可能かと思う。
いずれにせよ、次の作品も、その次の作品も期待するところ大である。この作者の作品であれば、発売した日に購入したい。
――いかにしてこの状況は出来上がったのか?
このミステリにおいての謎はこれだと私は考えていました。
泥棒たち、組織の青年、そして死体。
過去と現在それぞれがパズルのように配置されたエピソードの欠片たち。
視点と視点が重なり合い、謎が広がりながらも次第に謎の真相に近づいていく。
そんなミルフィーユのような構成の見事さには唸らされました。
ほぼ全編通して悪党しか出てこないキャラクター造形は小気味良く、
暗躍する「うさぎ強盗」の動機が語られた瞬間、
そこまできてなにゆえか「してやられた」と思いました。
うさぎ強盗はさわやかだ!
この人はここから更にもっと面白いものを投下してくれるのではないかと思うので、
ぜひとも今後も書き続けてもらいたいものです。
ところでこの世でミステリーを読むにあたって、結末や犯人を把握したあと、
伏線やミスリードに改めて気付きに行くという楽しみがありますね。
……
ええ、はい。もう一度うさぎ強盗の世界に行ってこようと思います。
それでは!
本作が優れているのはまずタイトルの秀逸さ。個人的には「兵隊やくざ」「ジョン、全裸連盟へ行く」に匹敵する。このタイトルだけで読む人間が倍は違うと言える。
そしてうさぎというファンシーなイメージにだまされてはいけない。ましてやうさぎ強盗を英訳したrobber rabbitの響きがロジャー・ラビットに似ているからなんていうあなたはすでに死んでいる。うさぎのなかには素早い動きで襲いかかり、鋭い牙で人間の首を噛み千切るヤツもいるのだ。油断して殺されないように備えとして、事前に『銀河ヒッチハイクガイド』「パルプ・フィクション」「SHERLOCKシーズン3第1話」なんかを確認しておくといいかもしれない。ただし、うさぎ強盗の鮮やかな手並みに殺されてみるのも悪くはないだろう。
本作は2回目を読みたくなる内容だ。そうしなければ真に本作を読解したと自信を持てなくなる。2回目にはあらゆる場面が1回目の印象と変化していることだろう。それを確認したくてたまらない。だが慌てる必要はない。本作が書籍化されれば、確実に再読することになる。書店で『うさぎ泥棒には死んでもらう』のタイトルを見かけたら、あなたは手に取らざるをえない。あなたはすでにうさぎ泥棒の術中にはまっているのだ。
たくさんの物語が一つの結末につながっていく。
うさぎ強盗とは誰なのか?
篠原の行く末は?
読者がその謎を解くためには、すべての文を登場人物を疑ってかからなければならない。
「うさぎ強盗には死んでもらう」はそんなハラハラドキドキな群像劇です。
もちろん、謎を解くだけでなくストーリーを追うだけでも十分に楽しめます。
群像劇ならではの読了後の爽快感や、うさぎ強盗などの魅力的なキャラクター。
物語冒頭、プロローグのうさぎ強盗についてのインタビューなど、読者を引き込む工夫が満載です。
ぜひ、プロローグだけでも読んでみては?
頁をめくる手を止められず、楽しめること間違いなしですよ!
ミステリーだということを忘れてふんふんと楽しんでいました。
そのぐらい丁寧に情報が提示され、また混乱せずとも楽しめるような配慮がされていたのだと思います。時系列がザッピングされ、前後されながら出てくる情報をタペストリーのように繋ぎ合わせ……いやパッチワーク? モザイク? うぇーい。
ともかく、読了後は映画一本見終えたような感覚になると思います。なっています。良質な海外の痛快劇っぽさ。
1、キャラクターが濃い作品が好き
2、群像劇が好き
3、しぶとく生きてる人が好き
いずれかに当てはまる人は迷わずどうぞ。もしかするとこの作品、期間限定かもしれません。