本日遂に完結されたため、ずっと控えていたレビューを書かせて戴きます。
強盗、泥棒、殺し屋、組織といった負の側面が強い題材を、魅力的なキャラクターと息つく暇のないストーリーにすることで、最後まで楽しく読むことができます。
小説だからできるトリックでありながら、途中に挟まれるアクションはまるで映画を見ているかのように鮮明にイメージできます。だからこそ、自分がそう思い込んだイメージに騙されてしまいます。
過去と現在が交差し、エンターテイメントを意識した描写は、伊坂幸太郎先生の「陽気なギャング」シリーズを彷彿とさせました。惜しむらくはストーリーとして完璧に纏まっている為、彼らの今後が読めそうにないくらいですかね。
「ミステリーを読まれるのなら、まずはこの作品を!!」という名作になると思っています。
次回作も楽しみに待ってます。
私が「騙される快楽」なる言葉を知ったのは高校生の頃だ。
確か第一回日本ファンタジーノベル大賞の受賞作品への書評として、選考委員であった荒俣宏先生が書いた言葉だったと思う。
ファンタジー小説への書評として「騙される快楽」とはまた変な言葉ではあるが、まぁそれはともかくとして当時高校生だった私はこの言葉にたいそう衝撃を受けた。
「なるほど! 鮮やかに騙されると確かに気持ちがいいもんな!」と。
以来、私はミステリーなんかを読むと「トリックを見破ってやるぞ」という気持ち以上に「さぁ、見事に、艶やかに、痛快に、私を騙してみせろ!」という欲求を抱いてしまうようになった。
ハードル爆上げである。
そんな私にとって今作『怪盗うさぎには死んでもらう』は、とんでもない快楽マシーンである(えっちな意味ではない)。
とにかく次から次へと騙してくるし、騙される。「キモチイイ!」が何度も続く。
そう言えば、先の書評にて荒俣先生が「はしたなくも『もっと、もっと騙してくれ』とおねだりしてしまう」と書いており、とんだ変態野郎だなと当時高校生だった私は思ったものであるが、なんてことはない、かく言う私も今作の前では『騙される快楽』に溺れ、もはや「しゅ、しゅごいのぉぉぉぉぉぉ」と絶叫しながらダブルピースをキメてしまいそうになっている。
素晴らしい作品だ。是非とも角川から書籍化してほしい。
そしてその書評に、このレビューを使用したりすると、角川文庫『帝都物語』で一躍有名になった荒俣先生も喜んでくれるに違いないと思うのだがどうだろうか(ぁ
この作品はいわゆる叙述トリックを散りばめた群像劇だ。構成としては成田先生のデュラララや奈須先生の空の境界に近い。
筆者は多分ミステリーではなく、伝奇というジャンルを作って欲しかったのではないだろうか?
上手い。しかも圧倒的だ。狂言回しの配置しかり、プロローグの核弾頭しかり。冒頭を読み切り「これミステリーじゃないじゃん」と思われた方もいたかもしれない。だがあえて言おう、それは完璧な掴みであり、それこそがこの物語の伏線なのだ。冒頭から語られるミステリーなどない。ミステリーとは散りばめられたピースをどう埋めていくかに観点が置かれる。
群像劇という手法で埋められていくピース。そこに探偵と怪人は存在しない。圧倒的な構成力ゆえに埋められていくこの物語を、奇しくも私は伝奇だと思ってしまった。
なるほど、キャッチコピー通りではないか。謎が徐々に解明されていく物語を、是非あなたが〝探偵〟となって見届けて欲しい。
いやはや、何度 総毛立った事でしょうか。地雷原を歩く、という表現は適切ではありませんね。
数多の緩急に身を震わせてやまないジェットコースターに、搭乗している気分といえばしっくりくるでしょうか。加えて言えば、鋭角な直線ではなく緩やかな曲線をなぞる様な心地よさ。
角の立たない心地よい文脈とウィットに富んだ柔らかな語り口。前提を内包する猫箱が間口を開く度に、足場が露と消え、浮き上がるような不安と喜びに心が躍ります。
創作に携わっている以上、情報を開示するタイミングというのは永遠の課題です。
一の情報を百にも千にも見せる為の手法。この技術が活かされるのはなにもミステリーに限った話ではなく。
物語という形態に触れている限り以上、必ず付き纏い乗り越えるべき壁です。
いうなればこの作品は、どのジャンルにも通じ得る根幹を備えたエンタメの最高峰と言えるのではないでしょうか。
ミステリーという枠で束縛されているのが勿体無い! では、また遊びに来ます。お疲れ様です。
最後の一文でひっくり返す。そんな衝撃が毎ページごとにあり、読者を全く飽きさせません。
群像劇のミステリーは、下手をするとお話が破綻する諸刃の剣でもあると思うのですが、この作品はまったく破綻がありません。
複雑に入り組んだ人間模様、展開、謎……。それらが1つでも紐解かれた時、言い様のない快感に襲われます。うさぎ強盗というか作者さんの技量というか、手の平の上で転がされまくりです。しかしその手玉に取られるのも楽しい。術中に完全にハマってますね。
完結後に読むべきだったかもしれません。しかし連載途中でもこれほどの完成度なのですから、どんなオチになるか期待して追いかけたいと思います。
※6月23日追記
第1回 カクヨムWeb小説コンテストミステリー部門受賞、おめでとうございます!受賞するのも納得の作品でしたので、書籍が出たら必ず買います!