エデンに蝶なんていない

楽しんでも、理解したくない。本作を読み終えて、強く、思いました。しかしながら星三個をつけて本レビューを記しています。

作中で主人公も苦しみます。理解したくないと。ですから作者は理解しているのです、自らが描く情景は人間にとって理解を拒絶したい欲望を抱くものであると。

その結末は、作品そのものをお確かめ願います。

理解したくないと思うほどの狂気を描く小説は希有です。平凡な作家なら、どこかで筆が鈍ります。それであっても本作を書かせた、根底にある胆力と、流麗に書き上げる筆力。

力業にひれ伏します。

　幸せしか知らない少女、その美しさ。彼女を彼女たらしめるのは、究極の「美しい世界」なのです。

　もしもその世界を揺るがすことがあっても、きっと、無垢な魂がそうと知ることは無いのでしょう。

　美とは、幸せとは。清浄と穢れをもって、識るものなのかもしれません。

　本当の幸せとは何か、人間らしさとは何か、と考えさせられます。

　主人公はある日、「一人の紳士」と出会う。彼のことを気に入ったとし、「娘」を任せたいと言われる。

　その先で出会ったのは、今まで見たことのないような、とても美しい少女。
　その完璧すぎる美貌を持った少女に心を奪われ、かつての失恋の記憶などが蘇ってくるが……。

　「完璧な美しさ」、「人間としてのもっとも理想の形」について紳士が語る。それは「エデンの園」を追いやられる前のアダムとイヴのような「ある状態」を保つこと。
　
　体の中の細菌を移植するとネズミの人格が似たようなものになるなど、科学的な解釈を加えつつ、「人間の持っている…続きを読む