本当の幸せとは何か、人間らしさとは何か、と考えさせられます。
主人公はある日、「一人の紳士」と出会う。彼のことを気に入ったとし、「娘」を任せたいと言われる。
その先で出会ったのは、今まで見たことのないような、とても美しい少女。
その完璧すぎる美貌を持った少女に心を奪われ、かつての失恋の記憶などが蘇ってくるが……。
「完璧な美しさ」、「人間としてのもっとも理想の形」について紳士が語る。それは「エデンの園」を追いやられる前のアダムとイヴのような「ある状態」を保つこと。
体の中の細菌を移植するとネズミの人格が似たようなものになるなど、科学的な解釈を加えつつ、「人間の持っている常識」や「社会に迎合して生きること」などについても掘り下げられていく。
人が人として、社会の中で暮らしていくためには、「人間らしくない何か」も同時にいくつも呑み込んでいかなくてはならない。それは確かに「不純物」であり、型にはまっていくだけの人間は「本当の美」から遠ざかっていくことになるのかもしれない。
これまでの人生で「彼」が抱き続けてきた弱さやずるさ。それを看破した紳士は、娘を託された後に彼がどんな決断をするかも見抜いている。
知性があるから人間なのか。社会で生きるから人間なのか。
いわゆる「アイデンティティ」は社会の中で培われることが多く、同時に人を強く縛って蝕むものでもある。
でも、「アイデンティティ」に悩むこと自体が、実は社会と関わることで獲得された「毒」のようなものなのかもしれない。
そんな「人間らしさ」の問題について一石を投じる、とても意義深い作品でした。