第1章 魔物が溢れる世界 10.初めての野営実習⑦

魔弾のD

第1章 魔物が溢れる世界

10.初めての野営実習⑦


「大地の恵みに感謝を。いただきます」

「「「「「「「いただきます」」」」」」」


 野営実習二日目の夕食はカニ・エビゴロゴロスープだ。

 料理の妖精持ちのフェム姉が作った影響もあるが、塩胡椒だけの味付けだが、素材の旨味が溶け出した最高の美味さだ。

 カニは身を食べやすいように足は縦に切断され、本体もぶつ切りにされているので吸い付くだけで身が口の中に転がり込んでくる。

 野性味あふれる肉ゴロゴロスープも魅力的だが、カニ・エビゴロゴロスープも贅沢な一品だと感じる。


 ある程度腹も落ち着いてくると、反省会が始まった。

 A班はゴブリンの群れを9回、南側のホットスポットでホブゴブリン含む三十匹ほどの群れの殲滅、ボア一頭を仕留めたことを報告した。

 B班は、カニ・エビ、サーモ共に大量だったこと、サーモは解体し燻蒸中、罠箱を昨日と同数仕掛け済み、午後は河の下流方向の探索を行い、ウルフの群れを三回殲滅したという事だった。

 明日はB班が南西方向のホットスポット探索、A班が漁労と河の上流方向の探索を行う予定だ。

 普段の同時期に比べると、ホットスポットで上位種が混ざっていた事、ウルフの群れとの遭遇回数が多めな点が注意事項として引継ぎされた。


 夕食と反省会が終わった後は皆でかたずけを行い、その後は各自武器の手入れや明日の準備に取り掛かり、夜番以外は順次ベッドへと潜り込み寝息を立てていく。

 今夜の夜番は二番手なので俺もベッドに横になり、すぐさま眠りについた。




「D、起きろ。交代だ」


 ゆさゆさとゆすられ、声を掛けられた瞬間、目が覚めた。

 夜番一番手のソウ兄に起こされ、夜番の焚火の場所に向かった。

 ソウ兄とゾフ姉から引継ぎを受け、二日目のミー姉と俺の夜番が始まった。

 冬の夜の寒さがしんしんと伝わってくる。


「そういえば、昼間、方角の話になったな。昼間は太陽の位置や地形から判断するが、夜はどうすると思う?」

「え? わかんない。地形?」

「まぁ何度も行く場所はそれでもいいが、初めての場所でも方角が判る方法がある。此処から北はどっちか分かるか?」

「え~と、右手の方向かな?」

「まぁ正解だが、確認する方法を教えよう。北の夜空で一番明るい星はどれだ?」


 俺は北の方角に浮かぶ星空を眺めた。

 改めて星空を見ると、一つ一つの星の明るさや色の違いがあることに気付いた。


「あれ? 星って明るさが違うんだね。大きさや色もよく見ると違うんだ。初めて気づいたよ。

 え~と一番明るいのは大き目の白いあれかな」


「そうだ。あれがポラリスだ。Dは惑星スィフィルが自転しながら太陽の周りを一年で一周しているのは習ったな?

 ポラリスは惑星スィフィル自転軸の延長線上にあるからいつ見ても北にあるんだ」


「へ~、惑星スィフィルが回転しながら太陽の周りを一年で一周しているって聞いた時は、信じられなかったけど、ポラリスが北を示すことに繋がってるんだ。

 すごいな~。でも、雲がかかって見えない特はどうするの?」


「雨の日や雲が多い時はお手上げだな。明るくなるまで待った方がいい。まぁそもそも方角も分からない場所で、夜に出歩くのは避けないとな」


 その後も、今日の探索での良かった点や改善点をミー姉からいろいろ教えてもらった。


「さて、そろそろ交代の時間だな。私が次番の教官とフェムを起こしてくるから、気を抜かずに警戒を続けてくれ」

「うん、わかった」


 それから寝ぼけ眼のフェム姉とオーデル教官と引継ぎ交代し、朝までぐっすりと眠った。




 野営実習 三日目


 翌朝も薄暗い頃から起き出し、カトル兄と鍛錬を軽く行った。

 昨日は何度かレベルアップをした効果なのか、身体が軽く感じ、身のこなしも一段速くなったような気がした。

 まぁ、カトル兄との模擬戦では相変わらず一本も取れなかったから、気のせいという事にしておく。




 朝食とかたずけを済ませると、早速B班は南西方向のホットスポットに向かって探索を開始した。

 俺達B班も漁労に取り掛かる。

 フェム姉と教官は燻製小屋から燻蒸したてのサーモを取り出して倉庫に移す作業だ。

 俺とミー姉は麻袋をもって罠箱の様子を見に河へ向かった。




 河原には魔物の姿こそなかったが、足跡が無数に残っていた。

「D、これがウルフの足跡だ。どうやら漁労のおこぼれを狙ってきたようだ。漁労中も警戒を怠るなよ」

「はい」


 目印の棒が立っている罠箱のある場所は直ぐにわかった。

 棒を回収し、罠箱を引き上げる。水中に浸かっていたせいもあるがずしりと重い。

 恐る恐る留め木をずらし、蓋を開けると大小のカニとエビが入っていた。


「D、カニは二十cm、エビは十cmを超えるサイズだけ麻袋に入れてくれ。後はリリースだ。身体強化をしておけよ。指が挟みでちぎられるからな」


 俺は身体強化を掛けて、挟まれないように慎重に大柄のカニとエビを摘まみ上げて麻袋に入れていく。

 罠箱に残った小振りのカニとエビ、餌の残骸を河に投げ込み、罠箱を綺麗にしたら一丁上がりだ。

 B班が昨日仕掛けた残り三個の罠箱の処理を終えると麻袋は満杯になっていた。

 楽しみにしていたカニ・エビの収穫はとても満足な結果だった。


 残るは昨日俺が仕掛けたボアの解体で出た内臓や骨を仕掛けた罠箱だ。

 ミー姉からはあまり期待せずに見てみろと言われているが、サーモの内臓を仕込んだ罠箱と何か違うのだろうか?

 目印の棒を回収し、罠箱を引き上げ、留め木をずらし、蓋を開けた。


“ヌルヌルヌルヌルヌルヌル”


 罠箱の中には黒くてテカテカと光る蛇のような直径四cm、長さ一m程の生き物が数匹蠢いていた。


「おお、でかしたぞD。別の麻袋にイールを入れてくれ。ヌルヌルするけど噛みつきはしないから丁寧にな」


 なんと、初めて見るちょっとグロな姿だが、これがあの美味しいイールなのか。

 孤児院サーロスでもめったに口にすることのない超ご馳走だ。

 父さん達も滋養強壮にいいんだと言っていた。

 イールの甘辛炒めは適度な脂っこさとたんぱくな白身が絶妙にマッチして、街の中では高価な珍味として有名だ。

 まさかボアの内臓にイールが喰いつくとは晴天の霹靂だ。

 ぬるぬると逃げようと身をくねらすイールを何とか麻袋に入れて、罠箱の後処理をした。


「今日の漁労はここまでだ。昨日までにかなりのサーモも取れているし、昨日のボアも手付かずだ。今日もカニ・エビが確保できているからな」


 残念ながら、投げ網によるサーモ漁は供給過多という事で本日は中止となった。

 まあ、その後は調理場でイールの下処理にてんてこ舞いすることになるのだが、とにかく今夜の夕飯は楽しみだという事だ。

 調理予定のボア肉ゴロゴロスープが霞むほどに。

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2025年1月11日 07:00
2025年1月12日 07:00
2025年1月13日 07:00

魔弾のD ~魔物が溢れる恐怖の世界を颯爽と駆け抜ける yoshi30 @SHINBAH

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