第1章 魔物が溢れる世界 9.初めての野営実習⑥

魔弾のD

第1章 魔物が溢れる世界

9.初めての野営実習⑥


「ギギャアアアアアアァ」


 今日の目的地、ホットスポットが見えた時だった。

 ホットスポットの方向からゴブリンらしき叫び声が聞こえた。


 先頭を行くフェム姉がしゃがみこみ、ホットスポットがある方向の様子を伺っている。

 俺もしゃがんで、全感覚を総動員して情報を探る。 <あそこかな? え? あれは… >


“前方右、ゴブリン群れ、上位種はミー姉、合図で突撃”


 おお、初めての上位種だ。手合わせしたいとも思うが、魔物が溢れる世界で油断は大敵だ。

 確実に勝ち切ることが最優先だ。


“二、一、GO!”


 俺達は武器を構え、森の中をホットスポットに向かって走り出した。

 数秒で見晴らしのいい場所に出た。

 どうやらホットスポット周辺には木が生えてないようだ。

 ホットスポットに向かって右側三十m程先にゴブリンが固まっていた。かなりの数だ。


“魔法攻撃開始”


 ミー姉とフェム姉の放ったウォーターカッターが音もなく群れに吸い込まれ、二匹のゴブリンの首が飛んだ。

 一呼吸分遅れて魔弾十連弾が群れに吸い込まれた。


「ドガガガガガガガ―ン」

「ギギャアアアアアアァ」


 ゴブリンの群れは爆炎に包まれた。

 数匹のゴブリンが爆炎の中から転がり出てきた。

 その内の一匹は身体体が一回り大きく、色味も赤い。上位種のホブゴブリンのようだ。


「突撃よ。ミー姉、上位種をお願い」


「任せろ!」


 ミー姉が槍を構え、加速してホブゴブリンに向かっていった。

<速い、昨晩もそうだったが、戦闘モードの獣人の身体能力はもの凄いな>

 俺も“身体強化”を掛けてミー姉に続いた。

 フェム姉も後に続く。


 ミー姉がホブゴブリンを十分な間合いから槍の一閃を放ち、見事に喉元を貫き引き抜いた。


「ゴフッ」


 ホブゴブリンは成す総べなく絶命した。


 俺は短剣で捻りを加えた胸元への突きを、ヒット&アウェイで次々と繰り出し、ゴブリンの息の根を止めていく。

 フェム姉も片手剣でゴブリンの胸元を突き抜いていく。

 ミー姉は魔弾の余波で倒れているゴブリンに止めを刺している。


 魔法攻撃開始から一分ほどで、周囲に立っている魔物の姿はなくなり、上位種を伴ったゴブリンの三十匹程の群れを殲滅した。

 またしてもレベルアップの感覚が来た。


<えっへん<(`^´)>。>


「D、ホットスポットの近くでは魔物の死体は入念に処理する必要があるから、魔石を取り出して首を切断した死体は一カ所に纏めて火魔法で焼き払ってね」


「うん。分かった。ホットスポットの傍ってゾンビになりやすいの?」


「そうね。ゾンビを見たことないけど、そう言われてるわ。それに、あなたの魔法で砕け散った魔石もいくつかありそうだから、念には念よ。全く、もう少しダメージコントロールしなさい」


「はぁ~い」


「返事は はい よ」




 ゴブリンの群れの焼却処理が終わり、ホットスポットを一回りしてからA班はベースⅡへの帰路に就いた。

 ホットスポット周辺に新たな魔物の姿はなかった。

 復路は、往路からやや北側のルートを進み、探索の基礎訓練は続いた。

 往路ほどではなかったが、五匹ほどのゴブリンの群れに三度ほど遭遇したが、全て肉弾戦で圧倒した。


 特筆すべきは、単体ボアとの遭遇だろうか。

 往路で見つけたボアの足跡はどうやら獣道にあったようで、タイミングよく単体ボアに遭遇した。

 フェム姉がボアの倒し方の見本を見せるという事で、仕留めてくれた。

 その戦い方は、肉と毛皮に極力ダメージを与えない配慮がされていて、突進してくるボアを躱しながら前足や後ろ足を的確に片手剣を叩きつけ、身動きできなくなったところに止めを刺すという戦術だった。

 俺は、魔法特化かつ回復魔法系の光魔法を駆使するフェム姉でも、ゴブリンやボアを圧倒する剣術のレベルの高さに改めて敬意を表することになった。

 結果として、俺はフェム姉の仕留めたボアの収納役と解体役の栄誉を授かることになった。まあ、雑用を振られたという事だ。

 



 ホットスポットの探索を終えてベースⅡに戻った時、B班はまだ戻っていなかった。

 冬の陽は傾き、そろそろ夕暮れになりそうな時間だった。

 調理場の魔道具冷蔵庫には大量のカニとエビが保管されており、どうやら今夜も具だくさんのスープにありつけそうだ。

 “料理”の妖精持ちのフェム姉が夕食の準備を買って出たので、俺はミー姉とオーデル教官の指導の下、ボアの解体作業にかかった。




 収納から取り出したボアはまだ生暖かい。

 解体場の滑車に掛けられたロープでボアの後ろ足を結び付け、釣り上げる。

 最初に喉を切り裂き、血抜きを始める。

 流れ出る血の勢いが納まったタイミングで腹を喉元から後ろ足の付け根まで切り裂き、内臓を取り出す。

 取り出した内臓は、倉庫に残っていた罠箱を持ってきてそこに放り込む。

 ここからが初心者には難しい工程だ。

 解体ナイフで毛皮と肉の間の脂肪の部分に刃を入れて、皮をはぎ取るのだ。

 ミー姉に高所の作業を手伝ってもらいながらなんとか皮を剥ぎ取り、肉の切り出しにかかる。

 肉の切り出しは大雑把に骨付きの部位ごとに切り出す。背、腹、あばら、腿と言った感じだ。

 最後は後ろ足と背骨、頭部が寂しく解体場にぶら下がる状態となる。

 それも罠箱に入れて、河に仕掛けたら解体作業完了だ。ミー姉が妙に興奮しているのが謎だ。

 解体場で出た血などは、床に空いた穴に流れ落ちるのだが、そこにはスライムがいて、奇跡の処理をしてくれる。

 多少の骨や肉の切れ端も一晩で跡形もなく無臭に処理してくれるらしい。

 ここだけの話だけど、隣接されているトイレも地下では繋がっていて、解体のゴミ同様、スライムが処理してくれるらしい。




 フェム姉の仕留めたボアの解体を終え、切り出した肉を魔道具冷蔵庫に入れるために調理場に行くと、何やらいい匂いが漂っていた。カニとエビのゴロゴロスープの匂いだろう。

 “グー”と鳴る空腹を堪えて、残った内臓や頭部・骨を入れた罠箱を河に仕掛け終えた時だった。

 薄暮の薄明るい中、下流の方角からB班が戻ってくる姿が見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る