第1章 魔物が溢れる世界 8.初めての野営実習⑤

魔弾のD

第1章 魔物が溢れる世界

8.初めての野営実習⑤


 その後もベースⅡから南方向に向かいながら、フェム姉と俺の探索実習は続いた。


 ゴブリンやコボルトの足跡、ウルフやボアの糞など初めて見るものばかりだが、一つ一つ覚えていく。

 ちなみに鳥獣の糞の状態からは獣の種類、何時排泄したのか等貴重な情報が取れることが判った。

 想像以上に魔物や獣の痕跡がいたる所にあることに驚く。

それだけ森の中は魔物や獣の棲息密度が濃いという事らしい。

 

<ん? >

 

 聞き覚えのない鳴き声が遠くで聞こえたと思った特、前を行くフェム姉にオーデル教官が前方を指差し、何かささやいていた。

 フェム姉がその方向を確認後、右手を上げ、“前方敵影、止まれ”のハンドサインを出した。


 俺達は足を止め、周囲の警戒に入った。


<いた。あれは… ゴブリンの群れだ>


“敵五、魔法発動後全員突撃、新手に注意”


 フェム姉が『ウォーターカッター』を二発発射したと同時に、A班全員が歩調を合わせて突撃した。

 距離約二十m。

 フェム姉の魔法は二匹のゴブリンの首を跳ね飛ばした。 残り三匹。

 オーデル教官は速度を落とし周囲の警戒に軸足を移した。

 俺は見習いハンター試験での教訓を生かし、練習した捻りを加えた突きをゴブリンの鳩尾あたりに突き刺した。

 フェム姉の剣、ミー姉の槍、俺の短剣が一撃で三匹のゴブリンを屠った。


 周囲を警戒しながら五匹の魔石取りと首の切り落としは俺がやらせてもらった。死体と首は一カ所に積上げた。

 新手の存在はなさそうだ。


「後処理、終わりました」

「D、なかなか手際が良かったぞ。目指すホットスポットは近いが、みんな一息入れよう。水分補給だ。干し芋でエネルギーも補給しておけ」

「んぐ、んぐ。ふ~。探索に集中しすぎて、水分補給を忘れていたよ。干し芋も口に入れるタイミングがなかったから助かるね」

「私もよ。自覚はあったけど、集中的に指導を受けると自分の出来なさ加減が判って自己嫌悪に落ちるわ。

 Dは最初のうちに探索技術を身に着けるのよ」

「そういえば、フェム姉が最初にハンドサインを出す前に何かの声が聞こえたけど、フェム姉もゴブリンの声に気付いたの?」

「え? 今回、私はオーデル教官に教えてもらったからなぁ。そんな声あった?」

「ほぉ、Dは山鳥の声に気付いていたのか。

 山鳥は形が小さいから食用には向かないんだが、ゴブリンやコボルト等の捕食者が近づくと仲間に警戒するように鳴くんだよ。

 その他に山鳥が飛び立ったり、騒いだりしても何かが起きていると気付くきっかけになるぞ」


「ええ? D、お願いだからお姉ちゃんの先に行かないで」


<おお、なんか俺レベル高い事やっちゃったのか? >

 

「まぁ、まぐれってことも有るからな。天狗にならずに基礎をみっちり体に叩き込もう」




 その後、ホットスポットへの探索が再開され、五~六匹のゴブリンの群れに三回ほど遭遇した。

 三回目のゴブリン殲滅を処理し終えた時だった。


「フェム、次はDの“魔弾”を試してみよう。魔物の密度が薄い段階で、評価しておきたいからな」

「ミー姉、了解。D、合図は私が出すから、次の群れは任せるわ」

「了解。ミー姉、フェム姉、俺頑張るよ」


 ついに野営実習での俺の得意技“魔弾”の使用が許された。

 野営実習では当然個の実力が求められるが、あくまでも連係プレイが前提での個の力となる為、“魔弾”の使用は制限されていた。

 危険物扱の“魔弾”が、連携プレイにプラスとなるのかマイナスとなるのか試される時がようやく来た。

 進軍を再開して間もなく、前方左手に俺でもわかる程騒いでいるゴブリンの群れと遭遇した。


 フェム姉のハンドサインが出た。“殲滅せよ。敵六。攻撃後慎重に接近”


 はやる気持ちを抑えて俺は集中を高めた。ターゲット六は練習では何度もやっている。上手く行くはずだ。

 魔素の弾丸に火と土の属性を練り込み、六匹のゴブリンのそれぞれの鼻柱に狙いを付ける。


「魔弾連弾!!!!!!」

「ドガガガガガ―ン」


 俺の突き出した左掌から六発の赤黒い魔力の弾が放たれた。

“魔弾”は狙い違わず六匹のゴブリンの頭部をぶち抜き爆散させた。

 直後、見習いハンター試験以来のレベルアップの心地よい暖かさが俺の丹田辺りに広がった。


<当然だ! ふんっす。ふんっす。ふんっす。D、もっと使っていいからな>


 “魔弾”の妖精はどうやら自分の魔法に使用制限を掛けられていることにご不満だったようだ。


「ヒュゥ~。実戦で初めて見たが、これは凄いな。聞いていた以上の威力だ。

 D、今の威力で後どれくらい撃てるんだ?」


「ミー姉ごめん。限界まで撃ったことがないからわからないよ。でも練習では十連弾を十回は連続して撃ってるよ」


「おいおい、本当か? こいつは魂消たな。魔物溢れでも十分戦力になるな。オーデル教官、育成方針の変更が必要だと思いますが… 」


「あっはっはっはっはっはー。いいもの見せてもらったぞ、D。

 ビンから聞いていたが確かに“魔弾”は大した威力だ。しかもほぼ独力でここまで育てているらしいな。

 ミーチャの気持ちも分かるが、育成方針の変更はなしだ。チーム連携重視は継続する。

 Dは独自に“魔弾”を育てることが出来る。

 Dに必要なのは“魔弾”が育つための切っ掛けだ。

 それは、野営実習で得られる現場の経験の積み重ねでしかない。

 今日のような経験を積み重ねることでDは大きく育つんだよ。

 いざとなったら“魔弾”で起死回生。これでいいだろう。サーロスⅡに大きな保険が掛かったと思え」


 俺の魔法戦闘力は認めてもらえることが出来たが、どうやらオーバーキルだったようだ。


 探索能力が身に付いてきていることも嬉しいが、俺の戦闘力が認めてもらえるのはもっと嬉しかった。




 やがて、目指すベースⅡに近い南部のホットスポットが見えてきた。

 ホットスポットは地上五m程の高さに突き出した、頂上が尖った黒い岩山だった。

 俺以外の三人は皮膚がヒリヒリしたらしいが、俺の感覚が鍛えられてないため、ヒリヒリどころか魔素が濃いという感覚を得ることが出来なかった。

 魔素の濃淡を感じる力は、そのまま魔力との親和性に直結する。

 課題が次々と提示され、既にお腹いっぱいだが一つ一つ自分の物にしていこう。


「ギギャアアアアアアァ」

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