第1章 魔物が溢れる世界 7.初めての野営実習④
魔弾のD
第1章 魔物が溢れる世界
7.初めての野営実習④
野営実習二日目。
冬の早朝、寝室内のごそごそする音で目が覚めた。
窓の外はうっすらと明るくなっているようだ。
俺はベッドから出て寝床を整え、朝鍛錬の為に木製の短剣をもって外に出た。
「D、お早う。よく眠れたか?」
「カトル兄、お早う。うん。ぐっすり眠れたよ。今日も稽古お願いします」
「野営実習中だから軽めだぞ。体を温める程度だな。屈伸と柔軟の後に、振り下しと突きを二百づつ。はじめ!」
確かに軽めだ。
普段行っている、ランニング、袈裟、逆袈裟、模擬戦が省かれていた。回数も半分以下だ。
それでも全てをやり終えると、うっすらと額に汗が滲んでいるのがわかった。
まだ、鍛錬を続けるカトル兄から声が掛かった。
「D、初めての実習だから軽めにしたけど、二回目以降の実習では自分の調子・体力と相談しながら、内容を増やせるようだったら増やしていいからな。
それと、これも体力との相談だけど、そろそろ短剣から普通の剣に得物を変えてもいいかもな。素振りを見てると短剣を卒業してもよさそうだ。
朝食までもう少し時間がありそうだから、忘れ物が無いように森探索の準備をしておけよ。収納持ちもバッグパックは背負っていくんだぞ。
それと水筒の中身を入れ替えて満タンにしておけよ。補充は水の魔道具『蛇口』からできるからな」
「うん。分かった。カトル兄、稽古ありがとうございました。準備もしておくよ」
カトル兄に言われて、今日は森探索の番だという事を思い出した。
事前準備のアドバイスももらったので、後からミー姉達に迷惑をかけることはなさそうだ。
改めて魔物が溢れる原野に踏み入れるためにやるべきことの多さに気付かされた。
温め直した昨日の残りのスープとハービスが朝食だったけど、流石に肉と内臓はゴロゴロしてなかったが今日の活力の元としては十分なものだった。
そしてA班は先頭フェム姉とオーデル教官(犬人族)、殿は俺とミー姉(虎人族)の隊列で、森探索に出発した。
ベースⅡの西から南側には、確認されているだけでも三カ所のホットスポットがあるらしい。
いずれも大きな岩が地中から突き出ているらしい。
魔物は魔素の濃い場所から生まれてくる。
ホットスポットでは常に魔素が濃い為、魔物も生まれやすく、生まれた魔物はその周辺で群れを作り、群れが大きくなると上位種が生まれやすくなるという傾向があるようだ。
上位種に率いられた魔物の群れは“巣”を作り、群れを大きくしてさらに上位の魔物を生まれやすくし、やがては数の暴力、“魔物溢れ”となって人族の生活圏に襲い掛かることになる。
サーロスⅡの野営実習の目的の一つは、ホットスポットが“魔物溢れ”を起こす前に、魔物を事前に駆除する事となる。
今日の森探索では、一番南側のホットスポットの魔物駆除に向かうことになった。
昨夜のミー姉の話の通り、行軍中の索敵をオーデル教官からみっちりと仕込まれているフェム姉の後姿があった。
殿の位置にいる俺も、もちろんミー姉から索敵の基本を勉強中だ。
「D、獣人は視覚、嗅覚、聴力共に人族より優れているが、人族でも獣人以上に索敵に優れる者もいる。
まぁたいてい妖精の恩恵だが、中には妖精の恩恵なしで獣人同様の索敵をする人族もいるからな。
最初からあきらめずに、Dの味覚、視覚、嗅覚、聴覚、感覚を極限まで使い続けるんだ」
「うん。わかった」
五覚を総動員して森の中を歩くと、確かに昨日は気付かなかったものがわかってきた。
「ミー姉、今の声は?」
「あれは、ウルフの遠吠えだ。方向は判るか?」
「後ろの方、かな?」
「まぁいいだろう。正確には北の方角だ。A班は今ベースⅡから南に向かっている。
ベースⅡは北の方角だから、ベースⅡより南側にいるウルフだな」
「あ、そうか。今は早朝だから太陽の方向がおおよそ東だとして、なるほど、分かったよ。方角をあらかじめわかってた方がいいんだね」
「まぁ、そういう事だ。なかなか筋は良いぞ」
先頭を行くフェム姉達が地面に何かを見つけたようで、しゃがみこみ、オーデル教官から何やらレクを受けている。俺は周囲を警戒しながら聞き耳を立てた。
「フェム、これは何の足跡だと思う?」
「ん~、人族のとは違うから、ゴブリンやコボルトじゃなくて、ボアとかウルフとか獣関係かなぁ」
「正解だ。これはボアだな。ウルフの場合は体重が軽いからもっと足跡が浅いんだ。
足跡の形や、深さ、間隔で何がどの方向にどのように動いているか分かるからな。歩いているのか走っているのかいろいろわかるぞ」
「という事はこの足跡はボアが歩いて北西に向かっているでいいの?」
「正解としよう。まぁうっすらとしか残ってないからわからないが、子連れだな。二~三頭の子がいる」
「もしかしたら、此処から北西の方向にボアの巣があるかも。このまま足跡を追ったら今夜の食材にできるんじゃない?」
「まぁ、逆もあるからな。エサを探しに北西に向かった可能性もある。
まずは今日の目的を遂げることが肝要だぞ。野営実習の大事な目的だからな」
いや~、レベル高くねぇ?
「D、遠吠えとか、足跡とか痕跡を一つ一つ記憶していくことが、五覚を使った探索の切っ掛けになるんだぞ。
それが経験って奴だ。
最初はきついかもしれない。何もわからないかもしれない。だけど常に五覚を使いまわしていればそれが普通になって、経験値が溜まれば一人前の索敵要員になれるんだぞ」
「ミー姉、ありがとう。少しわかってきた気がする。五覚を使い続けるのはかなり疲れるけど、いろいろ分かってくるのが楽しいよ」
A班の森探索は、本来の目的遂行と並行して、フェムとディエスの探索実習が濃密に行われるのであった。
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