第1章 魔物が溢れる世界 6.初めての野営実習③
魔弾のD
第1章 魔物が溢れる世界
6.初めての野営実習③
初めての漁労で、サーモを捌き、罠箱を仕掛け、燻製の仕込も終えた。
野営実習一日目の夕食までの仕事を終え、食堂兼調理場に向かった。
食欲をそそるいい匂いが漂っている。
一月の陽気は雪が積もってないとはいえ、陽が沈むと一気に宵闇と冷気が迫ってくる。
明りの魔導具や暖房の魔道具、調理の熱で部屋の中は居心地のいい空間になっている。
「D、良かったな、野営実習初日から角ウサギの肉ゴロゴロスープだぞ。ソウ兄に礼を言っておけよ」
B班のカトル兄が、配膳をしながら声を掛けてきた。
「やった~。ソウ兄ありがとう。
俺ソウ兄が角ウサギを仕留めた時、目を凝らしてみてたけど、魔法が当たるまでどこにいるのかわからなかったよ」
「ありがとうよ、D。まぁ焦らずとも、経験をしっかり積んでいけば見えるようになるさ。
俺も、初めての野営実習の時は似たようなもんだったよ。
さぁ、反省会は飯を食いながら落ち着いてやろう。皆座ってくれ。」
「大地の恵みに感謝を。いただきます」
「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」
今日の夕飯は、角ウサギの肉と内臓、薬草がゴロゴロ入った熱々のスープだ。お代わりもたっぷりあるようだ。
塩胡椒で整えた味付けは素朴ながらも、体の芯から温まる、野営実習としては最上級の料理だ。
付け添いのハービス(木の実入りビスケット薄い塩味)をスープに着けて食べても美味い。
空腹感が薄れてくると反省会が始まった。
今日の行動を振り返り、良かったこと、悪かったことをみんなで共有し、明日からの行動に繋げていくのだ。
魔物が溢れるこの世界で、賢く生き抜くための大事な時間だ。
そしてAB両班からは班行動中の内容を報告した。明日の行動に役立てる為だ。
「A班が漁労中は魔物の気配はなかったが、対岸に四~五頭のウルフの群れがいた。
渡河して襲ってくることはなかったが、渡ってこない保証はない。十分注意してくれ。
あと、禁漁期明けのサーモが大量にかかった。明日も大量なら小振りのサーモをリリースするようにしてくれ。
罠箱は四カ所に仕掛けてある」
ミー姉の報告に愕然とした。
どのタイミングでウルフの群れを見たのか確認しなかったが、おそらく俺がサーモを夢中で捌いていた時だろう。
全く気付いていなかった。というよりも周囲の警戒という大事なことがすっぽりと抜けていた。
野営実習一日目にして、俺は自分の足りない点、「集中しすぎる」に気付いた。
「B班からはベースⅡの柵についてだ。一部魔物が侵入しようとした形跡があったが侵入はしなかったようだ。
柵の補修は終えてある。
俺達の気配がある今夜からは襲ってくる可能性もある。十分注意してくれ。
ベースⅡ内の灯り、水、コンロ、暖房、冷蔵の魔道具や建物は全て問題なしだ」
最期に明日の両班の予定をすり合わせて反省会は終わった。
明日のA班は魔物を生み出すホットスポットを目指して森探索を行うことになった。
河に仕掛けた罠箱の回収は残念ながら漁労を行うB班の役割となった。
夕食兼反省会が終わると、みんなで手分けをして、後かたずけとベッドメイクだ。
ベッドメイクと言っても、バックパックから取り出した寝具の毛布と枕を、自分に割り当てられたベッドに置くだけだ。
そして就寝の時間になるのだが、野営実習中は交代で夜番を立てることになっている。
魔物が溢れる原野にいるのだから当たり前だ。
ツ―マンセルの組で交代しながら一晩中夜番を行う。
俺とミー姉が最初の夜番となった。
薪棚から数本の乾いた薪を持ち出し、石で囲われた場所にくべて火魔法で火を付ける。
パチパチと音がして薪に適度に火が着くと、辺りが明るくなった。
ベースⅡ室内の明りの魔道具は消され、闇夜に焚火の場所だけ浮き上がったような感じだ。
薪割用兼腰掛用の切り株に腰を下ろし、焚火で暖を取りながら夜番が始まった。
孤児院サーロスで見る夜空より、星の数が数倍多く感じた。
「D、野営実習の初日はどうだった? 疲れたか?」
「うん。疲れた。でも見る景色も、やっていることも初めてのように感じて、あっという間だったよ。
俺、周囲の警戒が出来て無いって初めて分かった。
こんなんじゃ、ハンターとして一人前になれないや」
「なるほどな。でも、初日でそこに気付くのは良い事だぞ。
ツーセン家の子供達は戦闘力が高いが故に、警戒心が薄いってのが、サーロスの常識になってるくらいだからな。
最近、ようやくカトルが様になってきたが、フェムは今年一年、オーデル教官とツ―マンセルで徹底的に周辺警戒について強化することになっているんだ。あ、今のはフェムには内緒だぞ。
まぁ、Dがやりたければ、今から私が教えてもいいぞ。これでも虎獣人だ、人並み以上の探索力はあるからな」
「え? 本当? ミー姉、是非お願いします。俺頑張るよ」
「よし、決まりだ。厳しくいくからな。早速だが、今警戒してないだろ?」
「あ! しまった。なんでだろう? すぐ忘れちゃうよ」
「まぁ、いい。今、集中して警戒してみな? 見える物、音、匂い、気配。何か感じるか?」
ミー姉の言うとおり、焚火の先の真っ暗闇を睨み、周辺の音や匂い、気配を探るように集中した。
焚火のはぜる音、暖気が寒空に立ち上る陽炎、周囲の絶対的な静寂…
「ん? 何かいる。柵の近く」
「まずは合格だ。ちょっと前から、柵の周りに魔物がうろうろしている。灯りの魔道具を消したまま持ってついてこい。足音は極力立てるなよ。合図で点灯だ」
「了解」
ミー姉が向かったのは焚火のある場所とは反対側の燻製小屋の方向だった。
焚火の明りからも外れ、星明りの中を忍び足で進む。
柵の外に聞き取りにくいがうっすらと魔物の声が聞こえてきた。
ミー姉が柵の手前で歩を止め、ハンドサインを出した。
俺もようやく星空の微かな明かりの中で、ミー姉のハンドサインを確認出来る程に目が慣れてきた。
柵の外には五匹のゴブリン風の影が蠢いていた。
ハンドサインは、ミー姉が柵を飛び越えた瞬間に明かりの魔道具を魔物に向けて付けろと云っていた。
俺は了解のサインを返し、明りの魔道具を持ち直した。
ミー姉が数歩の助走で策を飛び越えた。
そのタイミングで俺は明りの魔道具を魔物に向けて点灯した。
「「「「「グギャぁ(*´Д`*)ああ」」」」」
ゴブリンの群れが、突然の明りに驚き、叫び声をあげた。
五匹とも一様に両手で目を覆っている。眩しかったのだろう。
「セイッッッッッ!」
「「「「「ゴボッ」」」」」
ミー姉の槍の五連撃が炸裂し、無防備なゴブリン達の喉を貫き絶命させた。
魔石を取り出し、首を撥ねたゴブリンの死体は、解体所の穴に捨てた。スライムが謎処理をしてくれるらしい。
処理を終えた頃、俺達の夜番時間は終わり、引継ぎをしてベットに倒れ込んだ。
俺は物凄い強者に弟子入りしてしまったのだろうか。結論の出る前に俺は深い眠りについた。
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