第4話 逆ナンされた

 結果から言うと、コンタクトレンズはすぐにもらえた。

 大きい眼科だったから、俺の視力に合うレンズがすぐに見つかった。


 入れるのは怖かったけど、先生に入れ方をレクチャーしてもらってなんとかなかった。


 なので、今はメガネを外して、駅前通りを歩いている。


 視界がクリアだ。前髪で遮られることもないし、分厚くて度の強いメガネで目が疲れることもない。

 最高だ。



 でも、妙に視線を感じる。


 あちらこちらから見られているような気がする。

 特に若い女性からは、すれ違いざまにガン見される。


「……ちょっと怖いな」


 これまで誰かから執拗に見られることなんてなかった。

 俺は陰でコソコソと目立たないように生きてきたから、誰かと目が合ったり微笑まれたりするのは新鮮すぎた。

 

 人の視線が怖い。


 早く帰ろう……そう思った矢先のことだった。


「——あ、あの!」


 背後から声をかけられ、おまけに肩もつつかれた。


「はい……え?」


 振り向くとそこにはどこかで見覚えのある女性が三人立っていた。

 確か……


「わ、私、小島です。こっちは米田で、後ろの一番可愛い子が西園寺です」


「……」


 思い出した。

 この三人はいつもクラスでまとまってる仲良し三人組だ。

 前の二人は小島さんと米田さん。失礼かもだけど、あまり良い印象はない。

 陰で俺の悪口を言っているのを聞いたことがあるし、委員会の仕事を強引に押し付けてきたから苦手だ。

 

 しかし、一番後ろの西園寺さきさんはそんなことはない。

 クールな性格で話したことはない。確かお嬢様だった気がする。男子がいつも騒いでいたと思う。

 盗み聞きした噂によると、ついに告白百人斬りを成し遂げたらしい。凄まじいモテ方だ。


「お兄さん、お名前は?」

「教えてください!」


 小島さんと米田さんが聞いてきた。

 後ろの西園寺さんは我関せずでツーンとしている。興味がなさそうだ。仲良し三人組なはずなのに、そんな空気じゃない。


「え、えーっと……」


 あまり名乗りたくなかった。俺の心の中に恥ずかしい気持ちがあったし、乗り気な小島さんと米田さんにも悪いと思ってしまった。

 イメチェンしたとはいえ、普段は眼中にない嫌いな俺なんかに声をかけてしまったなんて、二人にとってはあまり好ましくないことだろうから。


「……二人とも、彼が困ってるわよ。ごめんなさい。行きましょう」


 俺が困惑していると、ふと西園寺さんと目があった。

 彼女は溜め息混じりに二人の腕を取った。


 助けてくれるらしい。


「え、えー! さき、いいの? こんなイケメン滅多に見つからないよ?」

「そうそう! クラスの男子より全然カッコいいじゃん! 気になるよー」


「確かに端正な顔立ちではあるけれど、顔だけで判断しないほうがいいわよ。大切なのは中身なのだから」


 西園寺さんは二人を連行すると、最後に俺に会釈をして立ち去った。


 俺が端正な顔立ちであるかどうかは置いておくとして、西園寺さんの言っていることはもっともだった。

 告白百人斬りを成し遂げた(噂)からこその視点だろう。


「……疲れた」


 一人残された俺は早歩きでこの場を後にした。

 人目を避けて道の端を選び歩き、下を向きながら家に帰ったのだった。


 なんか、月曜日に学校に行くのが憂鬱になったな。


 変な注目をされるのも嫌だし……いや、逃げちゃダメだな。せっかく意を決してイメチェンしたんだから、これからは今までの俺とは違う気持ちで過ごさないと。


 無理に明るく振る舞うつもりはない。ごく自然に俺らしく、母さんも話す時みたいに……うん、そうだ。


 普通に、平穏に、過ごそう。






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