第8話 スミくんは幼馴染

 その日もいつも通りに登校すると、教室に入ってすぐに声をかけられた。


「よっ、井下。おはよう」


「あ、スミくん、おはよう」


「なーんかイケメンじゃん。まあ、俺はずっと知ってたけどな!」


 俺の肩を組みながら屈託のない笑みを浮かべているのは、鷲見潤すみじゅんくんだ。

 スミくんと呼んでいる。


 爽やかな青年ど真ん中の見た目をしている。


 ちなみに同じクラスでありながら、幼稚園の頃から一緒の幼馴染だ。

 昔は俺と美香とスミくんの三人でよく遊んでいた。


「イメチェンしてみたんだ。似合うかな?」


「そりゃあ似合うだろ。井下は昔から顔整ってたし、俺はずっと思ってたぜ? 髪切ってメガネ取ればイケメン俳優か人気モデルになれるってな」


 スミくんは俺の目の色や顔を隠すことになった経緯をよく知っている。

 それでも顔を出せと無理強いしてこない。

 ただのいい奴だ。


「褒めすぎだよ。スミくんだって爽やかでかっこいいじゃん」


「えへへへへへへっ……そ、そうかなぁ?」


 素直なところもある。


「うん」


「くぅぅぅぅーーーー! こりゃあ井下がモテちまうな! 性格もいいし顔を出したら全員イチコロよ! それよりもどうよ、美香とは上手くやってんのか? 昔のお前の姿を見たら美香も喜ぶと思うぞ?」


「……まあ、もういいんだ、美香のことは」


「あー、聞いちゃ不味かったか?」


 空気も読めるスミくんは、すぐに声を落として表情を暗くした。


「いや、スミくんが気にすることじゃないんだけど、実は告白して断られちゃったんだ。あ、でも、全然もう吹っ切れてるから気遣わなくていいからね? ほんとに、もう大丈夫だからさ」


「そーかー? ならいいんだけどよ……じゃあ、新しい出会いを見つけないとだな。失恋は別の恋愛で忘れるのが一番って姉貴に聞いたからよ」


「由香里さんかー、元気?」


 スミくんのお姉さんの由香里さんには久しく会えていない。


「大学生になったら落ち着くかなって思ったんだけど、姉貴は元気すぎて困るくらいだな。お前にも会いたがってたぞ。今度うちこいよ。久々にお泊まりでもしようぜ」


「いいね。今度のテストが終わったらお邪魔しようかな」


「待ってるぜ、んじゃーな!」


 スミくんは白い歯を光らせて笑うと、自分の席に戻っていった。そこでまた別の友達に声をかけて盛り上がっている。

 由香里さんに似て、スミくんもかなり元気な性格だ。


 クラスの隅にいる俺みたいなタイプとは違う。人当たりが良くて話しやすくて、まさに根っからの善人ってやつだ。


 それにしても楽しみな予定が増えたなぁ。


 まずは三年生最初の学力テストを乗り越えるところからかな。

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