第12話 学園の三大イケメン
午後は体育の授業があった。
二限をまたいで体力測定をやるらしい。
三年A、B組の合同となる。
いつもなら目立たない隅っこでひそひそと終わらせるんだけど、髪を切って目を出したからかとんでもないくらい注目されている。
明言は避けてきたけど、やっぱり俺はイケメンらしい。
母さんもそう言ってくれていたし、スミくんや南さん、他の女子たちの反応を見ても明らかだ。
体力測定は男女合同だし、こればっかりは仕方がないか。
「……やりにくいなぁ……」
50m走の準備をしながら辺りを見た。
すると、隣のレーンの男子が声をかけてきた。
「よう、お前が噂のイケメンくんか。確かにちょっとカッコいいな」
「え、うん……ありがとう」
いきなり話しかけてきた男子は、キザだけど顔が整ってるし、髪は赤茶で炎みたいな色だった。
活発そうな雰囲気的に他クラスの中心人物だと思う。
「それにしてもみんな足遅すぎだろ。オレがバッチリ一位取ってやるから見とけよな」
なんて言って息巻いてるけど、チラチラと俺の方を見るのには何か意味があるのだろうか。
「……」
俺は無言で体を伸ばして出番を待った。
先生が白癬を引き直してるからもうそろそろ始まると思う。
それにしても……ガヤがうるさいな。
いつもなら静かなはずなんだけど、隣の彼が目立つのもあって女子たちが湧き上がっている。
「
一人が叫んだ。どうやら隣の赤茶髪のイケメンの名前は晴翔くんっていうらしい。
「今日も晴翔くんイケメンすぎない? 我が校が誇る三大イケメンって言われるだけあるわー」
「え? 二大イケメンじゃないの? サッカー部の誠くんと陸上部の晴翔くんだけでしょ?」
「あんた情報が古いわよ! もう一人は……えーっと、ごめん、名前は忘れたけど! とにかくカッコいいのよ! サラサラの黒髪に吸い込まれそうな青い瞳、そうそう、晴翔くんの隣にいるあの人よ!」
「わぁ……確かにイケメンだね。爽やか系の誠くん、情熱的な晴翔くん、二人を合わせて中性的にしたハーフ系イケメンって感じ? やば、カップリング想像したら鼻血出てきた!」
「ちょ、マジきもい! 早く拭きな!」
下世話な会話だったけど、ほとんどの女子たちはそれを楽しんでいるように見えた。
偶然ちらっと見えた西園寺さんだけは孤立して静かにしていた。変な噂が出回っていたからか周りに人は誰もいない。
やっぱり見ているだけでああいうのは辛くなる。
「チッ、なにが三大イケメンだ。誠みてぇになよなよした野郎とオレみてぇにアツイ男を比べんな。お前もそうだぞ。ちょっと顔がカッコいいからっていい気になるな。男なら顔だけじゃなくて他のところで差をつけろってんだ!」
「俺は顔だけで人のことを判断しないよ。大事なのは中身だからね」
「へっ、よくわかってるじゃねぇか。見た目ばかり気にする誠とは違うんだな。この前もクラスの女を侍らせて遊んでんの見かけたしよ。ったく、情けねぇ」
言動からして、晴翔くんはあまりイケメンとかなんとか言われるのが好きではなさそうだった。
「で、話は変わるけどよ、お前はなにかスポーツとかしてんのか? 足に自信は? 体育の成績は?」
打って変わって晴翔くんは品定めするような目を向けてくる。
なんか悪い人ではない気がする。
ただ勝負が好きそうな感じだ。
負けず嫌いなのかな? 瞳の奥がメラメラ燃えている。
「趣味で筋トレするくらいでスポーツは体育以外にやらないかな。他の人の足の速さは知らないけど、体育の成績は今までずっと5だったよ」
「ふーん、じゃあ少しは手応えありそうじゃねぇか。いいぜ、オレと勝負だ。勝った方がなんでも相手の言うことを聞くこと。どうだ?」
ジャンプの主人公みたいに軽く勝負を仕掛けてくるけど、明らかに俺に不利すぎる。
「……嫌なんだけど」
「あぁ? 負けんのが怖いのか? それでも男か?」
晴翔くんはにじりよって睨みつけてきた。同時に女子たちが湧き立ち鼻血が舞い上がる。腐った心を持つ女子が一定数いるらしい。
「負けるのが怖いわけじゃなくて、そもそも君って陸上部なんでしょ? だから、スポーツ経験のない俺とは勝負にならないと思うよ?」
「……ん、ああ、確かにな。悪い。ならオレはわざとスタートを遅らせてやる。それならいいだろ? 多分、コンマ2、3秒くらいのロスになるはずだ」
話がわからないタイプではないらしい。きっと直情的でアツイ男なんだ。
「わかった。陸上におけるコンマ3秒は大きいもんね。それでいいよ」
「オーケーオーケー! 体育の50m走なんてつまんなくて嫌いだったけどよ、お前のおかげでちょっとやる気出てきたぜ。負けた時の覚悟決めとけよな」
晴翔くんは本気モードに入ったのか、手慣れた様子で体を伸ばすと、真剣な顔つきで”クラウチングスタート”の体勢になった。
普通の体育の授業なら笑われそうなもんだけど、彼は陸上部だから様になっている。
ギャラリーは盛り上がっている。
「……負けた時の覚悟を決めるのは俺だけじゃないと思うんだけどね」
俺も見よう見まねでクラウチングスタートの体勢をとった。
コンマ3秒もハンデがあれば勝てる気がする。
50mって結構短いしね。
勝ったら晴翔くんになんでもいうことを聞いてもらえるなら、俺も本気で頑張ってみようかな。
少しすると、白線を引き終えた先生が笛を口に加えると、右手に持ったフラッグを掲げて合図をする。
「位置について、よーい……どん!」
8つのレーンに並ぶ男性生徒がスタートを切った。
中でも俺は好スタートを切っていた。自分が風になるイメージで足を回し手を振る。
約束通り、晴翔くんはほんの少し遅れてくれたのか、左横を見ても全く姿が見えない。
勝ったな。
「……ゴール! 一着は——6.25! 速すぎ!?」
タイム測定をしていた先生が驚愕していた。
よくわからないけど、これで俺の勝ちだね。
晴翔くんにお願いする内容はもう決めたから、後は流れに任せるしかないかな。
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